2014年3月2日日曜日

失われた名前 サルとともに生きた少女の真実の物語

マリーナ・チャップマン著
宝木多万紀訳
駒草出版

野生のサルの群れの中で生き抜いた少女。なんとたくましい生命力だろうか。



木の上で娘とともに微笑む初老の女性。
写真の中のその女性は、幼い頃サルの群れの中で育ったという。
そう聞いてすぐに、これは本当に実話なのだろうか思った。
オオカミに育てられたという「オオカミ少女」は嘘だったというし、
全聾だという作曲家の疑惑も世間を騒がせている。
もしかして、眉唾物なのだろうか。
そんな疑いを抱きながら読み始めたのだが、すぐに引き込まれてしまった。

コロンビアで生まれたマリーナ・チャップマンは、5歳頃に誘拐され、ジャングルに置き去りにされてしまう。
(彼女にはそれ以前の記憶がほとんどないため、正確な名前も年齢も生まれた場所もわからない。マリーナというのは、14歳頃自分でつけた名前である。)
そこでサルの群れと出会い、寂しさから近くに寄り添って暮らした。
サルと同じように尻を苔で拭き、サルたちが食べるものを同じように食べと、「サルまね」をしていくうちに、いつしかマリーナは彼らに家族のような感情を持つようになっていった。

そして、サルの鳴き方にもそれぞれ意味があることを学び、友達のような仲間もでき、ジャングル生活に慣れてきたある日、ジャングルで出会ったハンターに連れられて、人間の世界に戻ることになった。
(ジャングル生活は5年ほどらしい。)
しかし、人間界はジャングル以上に過酷な世界だった。

売春宿に売り飛ばされ、逃げ出し、ストリートチルドレンとなる。
犯罪一家の家庭でこき使われ、修道院へ逃げ込む。
と、大自然とは違った危険に向き合わなくてはならなかった。
また、文字通り野生児だったマリーナは、言葉や、清潔・行儀の概念がわからず苦労しながら成長していく。

なんというたくましさだろうか。
幼い少女が孤独に耐えながら、自らの手で生きていく術を学んでいく姿に、素直に感動した。
また、人間から見たサルの世界と、サルに同化した少女から見た人間の世界との対比も、興味深い。

あまりの過酷さに、読んでいて辛い箇所も多い。
しかし、娘夫婦や孫・優しそうな夫に囲まれて微笑むマリーナの写真が掲載されているので、読者は現在の彼女が幸せに暮らしていることを知っているのである。


マリーナ一家は子供が小さい頃、お互いサルの鳴き真似をしたり、髪の毛づくろいをしていたという。
そんな微笑ましいエピソードに頬が緩む。
60歳を超えた今でも、昔を思い出して木に登ることもあるというマリーナ。
彼女の幸せそうな笑顔を見て、本当によかったと胸を撫で下ろす。

このマリーナの感動的な半生が、真実だと私は信じたい。

※本書は、マリーナの話を何年にもわたって聞き取った娘がまとめた草稿に、ゴーストライターたちが手を加えたと明記されている。
また、修道院を出て希望の光が見えてきたところで終わっていて、続きを執筆中なのだという。
きっと続編は、もっと明るい話が続くのだろう。
楽しみに待ちたい。

2 件のコメント:

  1. この本読みたくなりました。
    ディズニーでもターザンが興味深くて好きだった。
    人間社会は汚いことが多すぎて、動物の社会は厳しいけど一度認められたら暖かいんだろうなと思います。
    何の知識もないまま、意地悪で生きにくい人間社会で、幸せを手に入れた主人公の続編も是非、読んでみたいです。

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  2. そらさん♪ すごく面白かったですよ。(図書館にあります)
    でも、にせ作曲家の事件があり、「これも嘘なのかも?」という疑問が頭から離れなくて(^^;
    素直な気持ちで読みたかったなぁ。

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