2013年4月2日火曜日

芸人の肖像

芸人の肖像
小沢昭一著
筑摩書房

昭和は遠くなりにけり。時代を彩った芸人たちの横顔。



突然、玄関先にピンポ~ンと人がやって来て「万歳してお祝いしてあげますよ」と言われたら、
ビックリしてドアを閉めてしまう人が大半ではないだろうか。
大正時代まではそんな「万歳芸人」だけでなく、舞、大神楽、願人坊主、琵琶法師、瞽女など
町から町へと流れていく芸人たちが溢れていたという。
彼らは家々を訪れ、報酬を目的に芸を演じる「門付」(かどつけ)を生業としていた。

この「芸人の肖像」では、著者がそんな門付芸人を始め昭和に残った芸能の残片を日本中に訪ね歩き、写真と随筆で記録していく。
表紙は、浅草寺境内でお金を入れると頭を下げる芸をしている犬のチビである。

粋で艶っぽい話が大好きな知識人…そんなイメージを抱いていた小沢昭一さん(1929-2012)は、蒲田の写真館の息子として育つ。
その後新劇の俳優として活躍するが、その傍らにはいつもカメラがあったという。

露天商が、舌先三寸でバナナやガマの油、薬草などを売る様子。
説教をしながら教えを説く者。
琵琶法師、浪花節、講釈師など語る者。
今ではなかなか見かけることのない芸人たちの写真が多数掲載されている。

そんな中一際目を引くのが、小沢さんが好きだったであろう「さらす」芸の数々。
著者は、ローズ秋山夫妻の荒縄・ローソクの芸(?)、カルーセル麻紀の臀部に咲くタトゥー、
また日々舞台でオープンするストリッパーたちが、楽屋でくつろぐ姿、洗濯物を干す場面を切り取っていく。

面白いと思ったのが、ストリップの音楽は客を煽るような刺激的なものが選曲されているが、
最後にオープンする時だけは明るく元気な曲、例えば「ピンポンパン体操」を流しながらニコニコ開くのだという。
客を安全に早く帰したいからだろうか。

一つ一つの職業について詳しい説明がないのが物足りなく感じたが、もう見ることができない昭和の記録であり、読むことができない粋なおじさんの随筆が読める貴重な一冊だった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。