2013年4月23日火曜日

私説 ミジンコ大全

私説 ミジンコ大全
坂田明著
晶文社

ミジンコをなめんなよ。



ミジンコをなめんなよ。
いや別にミジンコをなめていたわけではないが、この本を読む前の私にそう言ってやりたい。
人間のゲノム23,000個に対して、ミジンコはあんな小さな体で31,000個もあるんだぞ。
メスのみの無性生殖で増えるってことは、自分のクローンを増やし続ける処女生殖…マリア様のようではないか。
ミジンコは、節足動物門であり立派な甲殻網なのだ。

著者のサックス奏者である坂田明氏は、広島大学水畜産学部を卒業し、音楽活動のかたわらミジンコの観察を続けている。
日本プランクトン学会から特別表彰を受けたこともあり、現在は東京薬科大学の客員教授という肩書きを持つ。

本書の構成は
・1997年に出版され現在は絶版になっている「ミジンコ道楽」(講談社刊)を改稿し収録。
・坂田氏自身が撮影した美しいミジンコの写真が収められた「ミジンコ図鑑」
・陸水生態学・海洋ミジンコ・分子生物学の研究者たちとの対談。
となっている。
それに加えて坂田氏自身がミジンコをイメージして作曲した8曲が収められた「HARPACTICOIDA」というCDまで付いている豪華版だ。

坂田氏は深夜に一人、ミジンコを顕微鏡で観察するのを楽しみにしているという。
ミジンコの出産の様子を観察しながら、ミジンコが息を止めると坂田氏も一緒になって息を止めて見守る。
ときには腹筋が痛くなることもあるそうだ。
まさに立ち会い出産、それもラマーズ法ではないか。

ミジンコ愛に溢れている本書ではあるが、坂田氏は「ミジンコの姿に癒されているが、僕の愛が彼らに通じているとは思わない。ペットにはなりえないし、愛情や信頼のやり取りもできない」とあくまでも「ミジンコの味方」という立場で冷静に観察している。

すごいと感動したのが、「休眠卵」。
生育環境が悪くなるとオスとメスが交尾して受精卵を生む。
それが殻に守られた休眠卵だ。
干上がった土の上でも海や湖沼の土の中でも生き続け、環境の好転により孵化する。
水鳥の足にくっついたり、風に飛ばされたりしてどこまでも生き抜くのだそうだ。
どこにでも飛んでくるというから、きっと知らず知らずのうちに私の口の中に入ってきたこともあるのだろう。
また、休眠卵はとても強く、ゴカイの糞の中に混じったものや、35年前の地層から出たゾウミジンコの休眠卵、400年前のケンミジンコの休眠卵が孵化しているという。
なんと強靭な生命力だろうか。

DNAの専門的な話など私には難しい箇所もあったが、素人でも充分楽しめるミジンコ入門書だった。

だいぶ前にTVで、坂田氏が自宅の庭にたくさんの水槽を置きミジンコについて熱く語っている番組を観たことがある。
彼は今日も一人、顕微鏡を覗きながらミジンコに癒されているのだろうか。

※付属のCDは、幻想的で雄大なメロディの中にもほんのりと哀愁を感じさせる素敵な曲だったが、
残念ながら私にはミジンコを連想することはできなかった。

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