2013年4月4日木曜日

居場所を探して―累犯障害者たち

居場所を探して―累犯障害者たち
長崎新聞社「累犯障害者問題取材班」
長崎新聞社

累犯障害者を知っていますか。



累犯障害者とは、知的・精神的障害があるのに福祉の支援を受けられず、犯罪を繰り返す人たちのことだ。
新しく刑務所に入る受刑者の約1/4は知的障害の疑いがある人たちだと言われている。(本書より)
その中で療育手帳を保有している者はほとんどいない。
また、服役している知的障害者の7割が再犯者であり、3人に1人が3ヶ月以内に刑務所に逆戻りしているという。
(2010年法務省調べによるとIQ69以下の知的障害の疑いがある新規受刑者は6123人。全体の2割強)

本書は、累犯障害者について長崎新聞が2011.7~2012.6まで連載したものを再構成し、加筆したものである。
なお、新聞連載は平成24年度新聞協会賞を受賞している。

この累犯障害者の問題は、元衆院議員の山本譲司氏が秘書給与搾取事件で服役した経験を綴った「獄窓記」や、山本氏の講演をきっかけに世に知られるようになった。

10代の頃から盗んでは捕まる、出ては盗むを繰り返し、11回も服役した60歳の男性(IQ28)は、小学校の特殊学級・知的障害児施設を経て社会に出たあと、行政との繋がりが途切れ、福祉から置き去りにされてきた。

「刑務所はパンもくれるし病院にも連れて行ってくれる安心して暮らせる場所だ」という盗みを繰り返す64歳のろうあ者。
放火の罪で捕まり、「消防団の活動を頑張ってみんなに認められたかった」という知的障害を持つ消防団員33歳。

記者は、そんな累犯障害者たち本人や家族を丁寧に取材していく。
福祉の網からこぼれ落ちた障害者たちの多くは、社会で孤立し、生活に困窮した挙句罪を重ねている。

彼らの貧困・孤立、そして犯罪と「負の連鎖」を断ち切るため、

・障害に配慮した再犯防止の教育システムのない刑務所ではなく、福祉施設で更正させるため、実刑とせず執行猶予処分とする。

・身寄りも定職もない受刑者が社会復帰するために、刑務所と行政・福祉施設が障害のある元受刑者を受け入れ、就労・生活支援をした上で社会に復帰してもらう。(通称「長崎モデル」)

・厚労省の村木厚子さんが、文書偽造事件の損害賠償金で累犯障害者のために「共生社会を創る愛の基金」を設立。(参考:村木さんの設立の挨拶

そんな様々な取り組みが始まっている。

今まで重度の障害者支援ばかりに偏り、見過ごされてきた彼ら。
障害の特性を理解しない成育環境が重なり道を踏み外してしまったと考えれば、変わるべきは彼らではなく、司法・行政・福祉、そして私たちではないだろうか。
一方で、被害者となってしまた方々の行き場のない思いを受け止める必要もあると思う。

重いテーマではあるが、多くの人と一緒に考えたい問題である。

※本書並びに「新聞用字用語集」に倣い「障害者」という字を使用しました。

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