2013年4月19日金曜日

フレンチの侍

フレンチの侍
市川知志著
朝日新聞出版

「侍」という名にふさわしいフレンチシェフの生き方。



フレンチレストランといえば、舌を噛みそうなメニューが並び、値段が高くかしこまった場・気軽に行けないお店というイメージがある。
しかし、本書の著者・市川知志氏 のお店「銀座シェ・トモ」では、銀座という場所ながら夜のコースで5780円だという。
決して安くはないが、庶民でも手が届く範囲の値段設定ではないだろうか。

市川氏は1960年東京に生まれ、小さい頃から料理には並々ならぬ関心があったという。
高校時代にバイトしそのまま就職した洋食屋のシェフから、プロ向けの西洋料理の教科書をもらい、それがきっかけでフランス料理に傾倒していく。
本書は、フランス修行を経て自分の店を持ち、有名シェフとなった現在までを綴った市川氏の自伝である。

フランスではレストランの社会的地位が高く、三つ星シェフともなれば医者や弁護士より尊敬される立場だという。
市川氏は、言葉の壁を自力で乗り越え、人種差別のような屈辱に耐え、対人関係に悩みながら、田舎のレストランや星付きレストランを渡り歩き厳しい修行を続けた。
そして、個人主義の国・フランスで家族以上に親切にしてくれた人や、トロワグロなど有名店のシェフたちと出会い、交流を深めていく。
その後帰国し、惣菜店やレストランでの修行を経て、ついに念願の自分の店を持つことになる。

フランスでの孤独と不安、店の経営者となった際のプレッシャー、ときには苛立ち従業員を蹴っ飛ばすこともあったと、気負わず赤裸々に明かす姿勢に好感が持てる。

惣菜店での商品開発の際は、
・ショーケースに長時間並べるため「経時変化」の少ないもの
・菌が増殖しない工夫
・原価は廃棄コストを考え20%以下に
と、制約の厳しい中奮闘していく。
本書の魅力の一つでもあるそんな業界裏話も興味深い。

客がレストランに求めるものは様々だ。
接待で緊張し、料理を味わう状態ではないかもしれない。
反対に毎日接待され、本当はあっさりしたものが食べたいかもしれない。
もしかすると、一世一代のプロポーズを考えているかもしれない。

シェフが作りたいものと、それぞれの客が求めるものは違うのだ。
著者はその点を考慮しつつ、前衛的な料理から基本の古典料理まで試行錯誤しながら客のニーズを読み取っていく。
まさに「フレンチの侍」の名にふさわしい方だった。

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