2013年4月12日金曜日

小さいおうち
中島京子著
文藝春秋

女中は見た!昭和初期の家庭の事情。



女中---今では日常使われなくなったその言葉に秘められた、抑圧された魅力に惹かれるのは私だけではないだろう。
女中は、決してメイドのようなフリフリエプロンではなく、割烹着それも白を着用していて欲しい。
そう思うのは彼女たちの苦労を知らない私のわがままだろうか。

この「小さいおうち」は、田舎で一人暮らしをしているタキという老女が、かつて女中として働いていた頃を回想していく物語である。
文庫本の巻末には著者の中島京子さんと「一〇〇年前の女の子」 の著者である船曳由美さんとの対談が収録されている。

昭和5年、タキは尋常小学校を卒業後上京し、縁あって8歳年上のおっとりした奥様に仕えることとなった。
新築した赤い三角屋根の可愛らしい洋館で、奥様と旦那様、そして小さな坊ちゃんと一緒に過ごした日々を、懐かしみながら驚異的な記憶力で詳細に綴っていく。

女中という仕事に誇りを持ち、「何があってもこの家をお守りしよう」と心に秘めながら家族に尽くしていくタキ。
自分が家族のお役に立てることに幸せを見出していくのだ。

もちろん楽しいことばかりの女中生活ではない。
時代的にもむしろ苦しいことの方が多かっただろう。
しかしタキは、掃除・洗濯はもちろんのこと、食糧難の時代ながら工夫を凝らした料理を食卓に並べ、素敵な服まで縫いあげる。
「ほ、欲しい・・・この女中が欲しい」とつい思ってしまう完璧な女中ではないか。

そして、長い間一緒に暮らしていれば、別に柱の影から覗かなくても家族の様々な面が見えてくる。
子供ができない夫婦の事情、旦那様には決して見せない奥様の表情・・・
仲良さそうに見える夫婦にも人には言えない苦悩があることに気づいてしまうのだ。

タキが語る女中の話だけでも、その時代の雰囲気たっぷりで十分面白いのだが、この物語はそれだけでは終わらない。
タキの甥が語る最終章は、ミステリーの種明かしのようでもあり、また新たな疑問を投げかけてもくる。
最終章によってこの物語が引き締まり、また一段と深みを増しているのではないだろうか。
直木賞受賞に納得の一冊だった。

※途中まで読んで、再読だったことに気づいた。
でも、詳細は覚えていなかったので最後まで新鮮な気持ちで再読することができた。

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