2012年10月27日土曜日

ずっとお城で暮らしてる

ずっとお城で暮らしてる
シャーリー・ジャクスン著
市田泉訳
創元推理文庫

広大な屋敷で暮らす姉妹と伯父。人と関わらないようにしていた彼らのもとに、従兄がやってきて平穏が崩れていく・・・




ブラックウッド家 では、6年前にヒ素により4人が毒殺されるという事件が起こった。
生き残った主人公の メリキャット、姉、伯父の3人は立派な邸宅で身を隠すように暮らしている。
メリキャット は仕方なく週2回村へ買い物に出るが、人々の悪意ある視線が辛い。
事件の犯人扱いされその後釈放された姉は、料理や庭の手入れを担当しているが、他人が怖くて屋敷から一歩も出ない。
伯父は、姉の世話を受けながら過去の事件を回想する日々を送っている。
そんな ブラックウッド家 に従兄のチャールズがやってきた。
それをきっかけに、今までの危ういバランスが崩れ少しずつ何かが変わっていく・・・


メリキャット の一人称で描かれているこの作品。
掃除の様子、ペットとの散歩、料理の詳細・・・18歳の少女の口から日常が細かく語られる。
「接写」がずっと続いている感じで、なかなか全体像がつかめない。
そのため、村人がなぜ一家に悪意を持つのか、果たして本当に悪意を持っているのか、また姉始めほかの登場人物が何を考えているのか、メリキャット の語りだけでは判断がつかない。

あまりメリハリのない文章、さりげない会話の中に隠された衝撃、そして真相が明らかになると、周りが見えていなかった分、驚きも大きくなるのだ。
そこが、本書の最大の魅力に感じる。

読んでいると、村の人々からひどい扱いを受ける少女がだんだん可哀想になってくる。
過去に辛い体験をし、見守る保護者もなく嫌がらせを受けながら3人で孤独に生きてきたら、奇妙なおまじないをしたり庭に物を埋めたりと、頑なで変わった少女になっても仕方ないなとだんだん肩入れしていく。

巻末に桜庭一樹さんの解説で「ミステリー」「恐怖小説」と書かれているのだが、そうは思えなかった。
恐怖はあまり感じず、私には不思議な吸引力のある、可哀想な物語のように思えた。

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