2012年10月21日日曜日

パラダイス・ロスト

パラダイス・ロスト
柳広司著
角川書店

ジョーカー・ゲーム、ダブル・ジョーカーに次ぐ第3弾。鮮やかに人を欺く・・・そんなスパイたちが活躍する短編集。



昭和12年、「魔王」の名で恐れられる結城中佐 によって、日本帝国陸軍内部に秘密裏に設立されたスパイ養成組織、通称「D機関」
軍の組織でありながら、士官学校出の軍人ではなく一流大学を卒業した優秀な者たちに諜報員教育を行い、任務を遂行させる・・・

本書は、そんなスパイたちの暗躍を描いた短編集「D機関シリーズ」の第3弾である。

彼らの卓越した能力が魅力的なこのシリーズ。
「建物に入ってから試験会場までの歩数、階段の数を答えよ」
「鏡に映した文章を数秒間見て、完全に復唱せよ」
そんな試験を突破した優秀な者が、語学や知識、肉体、精神力を鍛え上げ、一流のスパイになっていく。

「そんな優秀な人いないだろっ!いや、もしかしたらいるかもしれない」と思いながら読み進める。
ハラハラドキドキしつつも、実は心の奥底で「優秀な彼らが失敗することはない」と確信もしている。
「殺さない・死なない」を信条としているので、殺人もほとんどない。
そんな安心感も魅力の一つだ。

そうは言いつつも、いったいこの話のどこに「D機関」が絡むのだろうと疑問に思っていると、そうきたか!と驚いたり、意外などんでん返しがあったりと、短編ミステリーとしてもとても楽しめる小説である。

とにかく彼らの活躍が、惚れ惚れするくらい見事でカッコいい。
本名始め私生活や私情を明かさず、自分を隠し「偽の人物」になりきるスパイたち。
昭和初期という設定だが、ちゃぶ台やお茶漬け、ステテコ・・・そんな昭和の匂いがする小道具は出てこない。
あくまでもクールに任務を遂行する。
お近づきになりたいとは全く思わないが、彼らはとても魅力的だ。

存在すら秘密であるはずの「D機関」の詳しい試験内容が、なぜか各国の人々の噂にのぼり大勢が知っている・・・それはおかしいのでは?と思うのだが、スパイたちにのぼせている私は気付かないフリをする。

このシリーズの大ファンとしては、謎に包まれた彼らは永遠にミステリアスなままでいて欲しい。
そして、いつまでもスパイ活動をしていて欲しい、そう願わずにいられない。

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