2014年5月18日日曜日

いつまでも美しく: インド・ムンバイの スラムに生きる人びと

キャサリン・ブー著
石垣賀子訳
早川書房

ムンバイのスラムを3年半にわたって取材したノンフィクション。



インド・ムンバイの国際空港近くにあるコンクリート壁。
そこには、鮮やかな広告が一面に書かれていた。
「いつまでも美しく(Beautiful Forever)。いつまでも美しく。いつまでも美しく。・・・」
延々と続くその広告のそばにあるスラムを取材したノンフィクションである。
原題は、「Behind the Beautiful Forevers Life,Death,and Hope in a Mumbai Undercity」

もともと貧困問題に関心があったという著者は、インド人男性との結婚を機にムンバイのスラムを訪れ、彼らの生活を3年半にわたって記録していく。


世界の貧困層の1/3をかかえるといわれるインド。
そのインド最大の商業都市・ムンバイに、小さなスラム「アンナワディ」がある。
そこでは、空港当局が所有する土地に粗末なバラックを建て、約3000人が不法に暮らしている。
ますます豊かに、ますます不平等になっていくムンバイで、いつか中流に這い上がれるかもしれないとの希望を胸に抱えながら。

16歳のアブドゥルは、住民たちが収集するゴミを分別し、業者にまとめて売ることで一家を支えていた。
真面目で無口なアブドゥルは、トラブルを避けるように目立たず暮らしていたが、隣人の女が灯油をかぶって火を点けるという事件を起こしてから、生活が一変する。

権力者を利用してのし上がろうと企む野心家の母親を持つマンジュは、このスラムで初の大学卒業を控えていた。

その二人を中心として、スラムの喧騒が描かれていく。
鳴り響く音楽、笑い声や怒鳴り声。
立ち上る土煙、あちこちで起こるいざこざ。
目まぐるしい日常の中で、彼らはたくましく暮らしている。

一日に1ドル以下で生活する住民たち。
学校へ行かず、ゴミを集める子供たち。
彼らの凄まじい生活ぶり、とりわけ子供たちの境遇に胸が痛む。
主語はスラムの住人たちで、文章の中には著者の影すら出てこないため、いつしか小説を読んでいるような気になってくるのだが、これは現実なのだ。

また彼らは、お金がないというだけで何度も理不尽な目にあう。
勾留され、無実の罪を着せられたくないと追い詰められた人に、持っている金をすべて出させ、借りられるだけの金を借りさせて搾り取る警察官。
金を出さなければ、不利な検査結果を提出すると脅す医師。
ここまで「地獄の沙汰も金次第」なのかと愕然としたのだが、彼らもまた生きるのに必死なのだ。

公正とは程遠い選挙、袖の下の横行、偽造書類、あまりの腐敗ぶりに驚いたが、複雑に入り組んだ宗教やカースト制度もあって、部外者にはなかなか手が出せない問題だろう。

彼らはこれからも、力と金を持っているものだけが恩恵を受けられる社会で、「いつまでもたくましく」生きていくのだろうか。

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