2013年12月3日火曜日

神田橋條治 医学部講義

神田橋 條治, 黒木 俊秀, かしま えりこ著
創元社

大学医学部の講義をまとめたもの。体育会系の私に読めるのか?不安になりながら手にとってみた。



本書は、精神科医の神田橋條治(かんだばしじょうじ)先生が、母校の九州大学医学部で年に1回4年生を対象にお話されていることを、10数年間分まとめた医学部講義録である。

1937年生まれの神田橋先生は、九州大学医学部を卒業され、同大学医学部精神神経科に勤務されたあと、現在は故郷・鹿児島の病院に非常勤で勤めながら、後輩の育成と指導に努めている。

普通に考えれば、医学部の講義なんて門外漢の私に理解できるわけがないのだが、本書は注釈付きで専門用語が多少出てくるものの、一貫して優しい話し言葉で語りかけてきてくれるので、体育会系の私でもなんとか読み通すことができた。

本当かどうかはわからないが「大学時代、講義中はずっと寝ていた」ととても親近感が湧くようなことをおっしゃる先生の語り口は、方言混じりの「~なの」「~ほしいの」といった調子でとても柔らかく、お会いしたこともないけれども勝手に優しいおじいちゃんというイメージが浮かぶ。

そんな温かみのある口調で、医師を志す学生たちに専門の垣根を越えて患者と向き合う姿勢を伝えていく。
機械がなければ何もできないとしたら、そのお医者さんは機械の付属品だ。
知識中心の普段の講義では学習できない医師としての心構えをは、彼らに説いていく。
聞いている医学生の中から精神科に進む者は少ないだろうが、どの分野に進んだとしてもきっと将来患者と関わる際に先生の言葉が頭の片隅に残っているだろうと信じたい。

人には自然治癒力が備わっていること。
医師や薬はその手助けをするのが本来の仕事であること。
プラセボ効果があるように、精神的な部分が体に影響を及ぼしていること。
今ある症状だけでなく、病状の流れ・ストーリーをよく診ること。

具体例を挙げながら、わかりやすく解説してくれるそういった話を聞いていると(実際は読んでいるのだが、本当に聞いている気分になる)、だんだん自分の心が軽くなっていくのがわかる。

かつて自分の不注意からジャンプに失敗し首を痛めているのだが、首の調子が悪いと心まで凹んでしまう。
特に最近痛みがひどく、もしかしたら重大な病気なのかもと精神的に落ち込んでいたのだが、先生のお話を聞きながらなぜか少しずつ癒されていったのである。

ああ、直接講義を聞くことができる医学生たちはなんと幸せなんだろう。
患者のことを一番に考える医師たちが、もっと増えればいいなぁと願う。

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