2013年12月10日火曜日

永遠の0

百田尚樹著
講談社




先月、ある大学の「ジャーナリズムの最前線」という講義で、百田尚樹さんがゲストとして講演されると聞き、聴講させてもらった。
おしゃれなスーツに身を包んで現れた百田さんは、思った以上にとてもダンディな方だった。

多忙な現在でも、担当している「探偵ナイトスクープ」の企画会議に毎週出席され、送られてくる約500通の依頼全てに目を通されていること。
長時間かけて準備しても、1回放送されたらおしまいであること。
49歳の時に、これからは違う人生を生きようと決意し、小説を書き始めたこと。

そういった内容を、芸人さんのような早口の関西弁で話してくださり、巧みな話術にすぐに魅了されてしまった。

そして、「永遠のゼロ」を書かれたきっかけを次のように話された。
大正13年生まれの父もおじも戦争体験者であり、子供の頃から当たり前の様に戦争の話を聞かされていた。
しかし、彼らは孫の世代には戦争の話を全くしていない。
戦争体験者が歴史から消えようとしている今、次世代に彼らの思いを伝えたい。


講演を拝聴し、ずっと気になっていたものの未読だった本書をぜひ読まねばと思い手にとった。

司法試験浪人ながらやる気を失っていた健太郎は、フリーライターの姉から「祖父のことを調べたいからアシスタントをしてくれ」と頼まれる。
祖父とは、今まで血が繋がっていると思い込んでいたおじいちゃんではなく、おばあちゃんの最初の夫で太平洋戦争で戦死した祖父・宮部久蔵のことであった。
祖父は、パイロットとなり終戦の数日前に神風特攻隊として最期を迎えていた。
そして、祖父は帝国軍人なら決して言ってはならない「生きて帰りたい」と口にする臆病者だったという証言を聞く。
「家族のためにも死ねない」と言い続けた臆病な祖父が、なぜ自ら特攻に志願したのだろうか?
祖父のことを知る人物を訪ねて回るうちに、少しずつ驚きの真実が明らかになっていく。


なんて読むのが辛い小説なんだろうか。
貴重な青春時代を戦争に捧げた若者たち。
死ぬとわかっていながら戦闘機に乗り込む兵士たち。
一人一人の兵士に家族がいて愛する者がいるのに、使い捨てにされる彼ら。

彼らや息子を送り出す家族たちのことを思うと胸が張り裂けそうになってしまう。
しかし、冬だというのに暖かい服を着て、十分すぎる食べ物を食べている私に彼らのことを思い泣く資格があるのだろうか。
辛かっただろう、悔しかっただろうと彼らの気持ちを想像し苦しくなるけれど、彼らの本当の苦しみや哀しみを理解するのは、現代に生きる私には不可能ではないだろうか。
読み終わった今も、本書の余韻に浸りながらそう考える。

本書は既に300万部を突破し、平成に入って一番売れた本だという。
読みやすいミステリー仕立てのエンタメ小説で手に取りやすく、過去にあった出来事をわかりやすく知ることができるという意味で、本書の功績は大きいと思う。
イデオロギーを問わず、また本書をどう読み解くかに関わらず、読者は否応なしに戦争と向き合うことになるのだから。

そして12/21に、V6の岡田君主演で映画も公開される。
それをきっかけに、本書を手に取る方も多いだろう。
「日本人ならこの悲劇を忘れて欲しくはありません。」
そうおっしゃる百田さんの想いが多くの方に届きますようにと願う。

講演会場の大学のホール

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