2013年11月14日木曜日

蚊がいる

穂村弘著
メディアファクトリー

歌人の穂村さんが、脳内で考えているずるいことや恥ずかしいを赤裸々に告白したエッセイ。それでもやっぱり穂村さんはいい人だなぁ。



人の家の洗濯物を眺めるのが好きだ。
変態だと思わないで欲しい。
別に、下着を詳細に眺めたいわけではない。
どういう干し方をしているのか見るのが好きなのだ。
ああ、この人は大きさ順に干している。
こちらは何でも竿にかけるタイプの方だ。
この家は無秩序だ、きっとこだわらない方なのだろう。
うわっ、色がグラデーションになっている、すごい!
ベランダが満艦飾だ!大家族なんだろうな。
などと妄想している。
自分はいつも乾きやすさだけを考えた、見た目軽視派なのだが。

誰にも言ったことのない、こんな告白をしてしまったのも、この「蚊がいる」という穂村弘さんのエッセイを読んだからかもしれない。
歌人の穂村さんが脳内で考えている、ずるいことや恥ずかしいことまで正直に赤裸々に告白してくれているのだから、私も恥ずかしながらカミングアウトしてみたくなったのだ。

会社員時代の飲み会とカラオケは「楽しまなければいけない」ものだったので、とても辛かったと告白する穂村さん。

街頭でティッシュを配る人が立っていると、かなり手前から緊張してしまう穂村さん。

テレビ番組に出演した際、最後に出演者たちがテレビカメラに向かってバイバイをする場面で、「普通のバイバイをするような俺じゃねぇ。誰も見たことないような格好良いバイバイをしよう。」と思ったけど、「特別なバイバイ」なんて咄嗟に思いつくはずも無く、手を挙げたまま固まってしまった穂村さん。

脱力系の文章の中に、人の良さがにじみ出ていてとても好感が持てる。
すれ違いざまにぶつかった相手に舌打ちされて、「『こいつの心臓が止まるボタン』が手の中にあったら即押す」などと物騒な告白をしているけれど、穂村さんはそんなボタンがあったとしても絶対に押せないタイプなのだと、私は確信している。

自信のなさから迷いに迷ったり、人目を気にしてしまう穂村さんに、「もう穂村さんたら!しっかりして!」と思わず言いたくなってしまう。
エッセイを読んでいると、スゴイ方だということを忘れてしまうのだ。

「手を汚さない納豆」から「フロントホックブラ」に繋がってしまうように、妄想が激しく思考の飛躍がすごい。
こんなエッセイは、穂村さんにしか書けないだろうなぁ。

えっ!そうなの!と驚いたり、じれったいなぁと思う場面もたくさんあった。
でも、今まで私の頭の中でモヤモヤしていたことを、穂村さんが言葉にしてくれてスッキリしたり、時には共感する場面もあったのだ。

誰でも心の中で思っているけどあえて口に出さないようにしていることを、正直に書いちゃう穂村さん。
ああ、穂村さんてやっぱりいい人だなぁ。

※本書は、「L25」「週刊文春」「読売新聞夕刊」などに掲載されたエッセイをまとめたものである。
巻末には、又吉直樹さんとの対談が収録されている。

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