2013年7月29日月曜日

夢を売る男

百田尚樹著
太田出版

その男は詐欺師なのか?それとも「夢を売る男」なのだろうか?



高校生の時に、国語の授業の一環で小説(のようなもの)を書かされたことがあった。
プロットを考えている時はとても楽しく、素晴らしいものが書けてしまうかもと思ったものだった。
しかし、書き始めてみると自分でも嫌になるほどつまらない文章しか書けなかったのだ。
見るも無残な出来栄えに、小説は書くものではなく読んで楽しむものと早々に結論づけた。
文才のなさは己が一番よくわかっているのである。
(その時書いた小説は、全員分高校の図書室に収められている。願わくは永久に眠っていて欲しい。)

自分の本を作りたいという「夢」をテーマにした小説が、この「夢を売る男」(百田尚樹著)である。
主人公の男は、文学賞に応募してきた夢見る人々に片っ端から口八丁で「本を出版しないか」と持ちかけていく。
自費出版ではなく、出版社と著者が出版費用を負担しあい、ISBNコードを取得し、国会図書館に収められ、実際に書店で売られる・・・ジョイント・プレスという方式なのだという。

努力を馬鹿にして何もしないくせに、スティーブ・ジョブズのような成功者になると信じているフリーター。
自分の凄さを理解してくれない幼稚園のママ友たちのことを見下しながら、いつかベストセラーを出版し見返してやると考えている教育ママ。
そんな彼らの虚栄心や自己満足を満たすため、おだてて、あおって、金を引き出していく。

売れっ子作家となった今でも「探偵ナイトスクープ」の構成作家は続けているという著者は、読み手を楽しませることを意識しながら書いているように見受けられる。
ご自分のことを「元テレビ屋の百田某」と皮肉ったり、軽妙な語り口でスラスラ楽しく読むことができた。
出版業界の裏話も興味深い。

ただ、もう少し起伏のあるストーリー、きちんとしたオチがあればよかったかなと思う。
設定が面白いだけに、中途半端な終わり方がちょっと残念だ。

(本文より)
「100年前はテレビも映画もなかった。その頃はおそらく、小説は人々の大きな娯楽の一つだったろう。しかしこの21世紀の現代で小説を喜んで読むという人種は希少種だよ。いや絶滅危惧種と言ってもいいな」
そう考えると「本が好き!」な私は、貴重なのかもしれない。

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