2013年5月18日土曜日

美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い

美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い
サンディ・ネアン著
中山ゆかり訳
白水社

8年と145日を費やした奪還作戦の全貌。



1994年7月28日。
フランクフルトのの展覧会場から、2点の絵画が強奪された。
英国のテート・ギャラリーが貸出していた19世紀英国の偉大な画家、J.M.W.ターナーの「光と色彩」(表紙に掲載)と「影と闇」(裏表紙に掲載)、合わせて約37億円もの価値を持つ英国の宝だ。

本書は、事件当時テート・ギャラリーの企画責任者で絵を取り戻すために奮闘した著者の「体験談」(第一部)と、「美術品盗難に関する歴史と考察」(第二部)で構成されている。

カッコいい犯人がケガ人も出さずに鮮やかな腕前で品物をさらって行く、ついでに恋愛も絡んで・・・
高額な美術品泥棒というと、どうしても映画や小説のフィクションを思い起こしてしまう。
「オーシャンズ11」「エントラップメント」(マレーシアのツインタワーが舞台なのでお勧め)など、犯人側を格好良く描くストーリーも多い。

実際の事件でも、ときには犯人側よりもむしろ盗まれた側の美術館の管理部門に大衆の怒りが向けられることもあるという。
よく考えてみたら、いや考えなくてもそれはおかしなことだ。

確かに、テロ事件や誘拐・殺人事件などに比べたら、恐怖は感じづらいかもしれない。
しかし、もう二度と手に入れることができない人類の偉大な宝を失う損失は大きい。

1年間に盗まれる美術品や古代遺物の国際市場は年間約4500億円相当の規模にのぼり、その大半は違法な麻薬取引のネットワークと関係があるという。

本書では、8年と145日かけて取り戻した過程が詳細に記されているが、フィクションと大きく違うところは、許認可や契約の複雑な問題だ。
美術館関係者、情報提供者、保険会社、政府関係者、警察など、様々な人物が国境を越えて関係してくるので、そのために連絡を取り合い、認可を取り契約を交わす煩雑さが、生々しく真に迫っていてスリリングだ。

日本でも海外名画を招聘した美術展がたくさん開催されている。
セキュリティ面は大丈夫なのだろうか。
こういった盗難事件に巻き込まれないことを願う。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。