2013年2月12日火曜日

とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶
犬村小六著
小学館

尊い身分の少女と社会の最下層に属する青年が2人で過ごした数日間。



ショックなことや理不尽なことが起きた時、自分の周りに壁を作り外側から俯瞰する・・・
悲しみや怒りの衝撃から自分の心を守るために。

この「とある飛空士への追憶」(犬村小六著:小学館)のヒロインである公爵の娘・ファナ は、小さい頃から男性への贈呈用として育てられ、四六時中ふさわしい行動をしているか点数を付けられる生活をしていた。
そのため、子供の頃から壁を作り辛い現実を観劇のように眺めるという自己防衛術を見出していた。

一方、主人公の シャルル は、敵対している母の祖国と父の祖国両方から受け入れられない最下層の人間として育つ。
その後、実力では誰にも負けない技量を持つ一等飛空士となったが、階級社会のため境遇は相変わらず不遇のままだ。

そして、皇子の婚約者となった ファナ を未来の花婿に送り届けるため、敵の包囲網を単機で突破せよとの命令が シャルル に下された。
こうして身分違いの2人は出会ったのだ・・・

本書は、架空の国で起こった戦争の真っ只中に、階級制度の最下層の男と次期皇妃が2人だけで過ごした忘れられない数日間の物語である。

架空の国、架空の戦争、架空の戦闘機、そして架空の人々・・・
描き方によっては突飛過ぎてついていけない話になるかもしれない。
しかし本書は、表現力豊かな文章で最初から違和感なくこの世界に入り込むことができた。
そして、すぐに頭の中が2人でいっぱいになってしまった。

美しい少女、才能ある青年、抑圧された不自由な生活、虐げられてきた人生、身分の違い・・・
盛り上がる要素がてんこ盛りで一気読みせずにはいられない展開だ。

そして圧巻は、手に汗握る戦闘シーン。
結末を知らないくせに「きっとハッピーエンドだから大丈夫」と根拠のない慰めを自分自身に言い聞かせながら、読み進めた。

あっという間に終わってしまったこの世界とこのままお別れしてしまうのは、もったいない。
シリーズ化されているらしいので、また追いかけてみたいと思う。

※「本書は2008年に『ガガガ文庫』から発行されたものに、加筆・訂正を施したものです。」との注釈があった。

※読み終わり、「王道の純愛物語」に浸ることができた自分に正直ホッとしている。
もしかして自分はすっかり枯れてしまい、こういったストーリーは楽しめないかもと危惧していたので。
 

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