2012年1月20日金曜日

死刑と無期懲役

死刑と無期懲役
坂本敏夫著
ちくま新書


元刑務官だった著者が、刑務所内や死刑問題について語った本。色々と考えるべき問題が多いとあらためて気づく。



1947年生まれの著者は、刑務官として全国各地の刑務所などに勤務し94年に定年退職となる。
現在はTVドラマの監修や講演活動を行っている。

本書は、拘置所や刑務所の内部の様子、受刑者の処遇、冤罪、矯正教育、死刑・無期懲役・終身刑等処罰に対する著者の考えなどについて「報道されない塀の中の真実と様々なメッセージを」語っている。

2002年の「名古屋刑務所保護房死傷事件」いわゆる消防ホース事件と革手錠死傷事件について、その後どうなったか知らなかったが、本書によると懲役刑が言い渡され、現在最高裁の判断待ちだという。その事件について、著者は、十分な証拠調べをせず、特捜部の仮説通りに裁判が行われたという。真偽は私には判断できないが、驚いた。

そして、この本ではたくさんの問題提起をしている。取り調べの可視化、アメリカのような司法取引やおとり捜査、終身刑についてなど、考えるべき問題はたくさんあるのだと再認識する。

著者は、死刑制度は凶悪犯罪への抑止力はないと言っている。長年死刑囚に接している人の言葉ゆえに重みを感じる。そして、「人間は変われる」という。

罪を本気で悔いて償う人もたくさんいるだろうが、高い再犯率や、更生プログラムがあまり機能していないことを考えると早急に改善を願いたい。
ただ、刑務官たちは大変な仕事で人数も十分ではないにもかかわらず懸命に働いているのだと感じた。

一つ、被害者の立場は出てこないのが残念だった。
何の落ち度もなく被害に遭われた方と家族はどう考えるのだろうか。
最愛の肉親を失って深い喪失感を一生負うことになる家族は、税金で衣食住を賄ってもらっている囚人をどう思うのだろうか。

膨れ上がる受刑者たちを減らすために、将来の被害者たちを減らすために、子供の教育に力を入れるべきだと痛切に思う。

余談だが、懲役囚の立場から書いた本「人を殺すとはどういうことか」  「死刑絶対肯定論―無期懲役囚の主張」(美達大和氏著)は大変興味深く、併せてお薦めしたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。