2012年1月17日火曜日

あんぽん 孫正義伝

あんぽん 孫正義伝
佐野眞一著
小学館


佐野眞一氏が孫正義氏の半生に迫った本。本人も知らなかった「血と骨」の物語。 本人・実父始め多数のインタビューを交えって綴った評伝。




題名のあんぽんとは、孫氏の子供時代の通称名「安本」の読みからきている。

昭和32年、佐賀県の地番もない無番地とつけられた朝鮮部落に生まれ、豚の糞尿と、豚の餌の残飯、
密造酒の強烈なにおいの中で育った孫正義氏。
世界長者番付で例年日本人ベストテンの中に入り、現在は「反原発」の旗頭役的存在となっている。
しかし、今まであまり興味がなく、孫氏のことを考えたことがなかった。
佐野眞一氏が書いた評伝だというので読み始めたのである。
そして、そのあまりに壮絶な生い立ちに驚愕した。

著者によると、
「これまで書かれた孫の評伝で、孫の血脈を3代前まで遡って調べ上げ、現存する父方・母方の親族全員に会って取材したものもなければ、そのルーツを追って韓国まで取材の足を延ばしたものもなかった。孫に決定的な影響を与えた父親の安本三憲氏に長時間インタビューしたものもなかった。これまで書かれた孫の評伝は、孫のサクセスストーリに目を奪われ、紋切り型の記述に終始してきた。」
ものであり、この本は今までの評伝と違い、孫正義氏にいつもまとわりついている「いかがわしさ」の根源を探ることがテーマだと言いきっている。

印象深いのは、小学校・中学校の先生が口を揃えてリーダーの資質を持っていると語っていたことだった。勉強ができない子には見下すことなく教える。怒った顔を見たことない。明るく頼もしい理想的なリーダーであったという。

その他
小中学生時代の詩が載っていたが、子供とは思えない早熟ぶり。

高校入学してすぐに塾経営を考え、中学の担任に「自分がオーナーをやるから、雇われ社長になってくれと」スカウトする。

ある人は、まだアメリカの大学生であった孫氏の頼みで、融資額1億円の保証人になる。

誰も知らなかったヤフーの創業者に会っただけで将来性を確信し、投資した。

などやはり、凡人とは違う数々のエピソードがあった。

そして、強烈すぎる父・・・・

昭和30年代の朝鮮部落の壮絶さは私にとって衝撃で、今更ながら差別に苦しんできた哀しい歴史を認識させられた。
孫氏のツイッターに対して、「生粋の日本人でこの国を思っている日本人に任せるべきです」等の多数の差別的発言が寄せられているらしい。
ここまで成功した現在でも、仕事上の批判ではなく出自に関しての差別があるというのは同じ日本人として悲しく情けなくなる。

著者は、批判するところは批判し、さすがと思うところは素直に称えながら、冷静に綴っている。
そして、これは孫氏の評伝であり、辛い「在日」の歴史でもあった。

ダイエーの中内氏との対比も興味深かった。

合間合間に「これは既刊の評伝には載ってない」とか「孫氏は人を辟易させる」など著者の自慢や個人的な考えを挟んでいて品位を疑う箇所もあったが、全体的には傑作と思う。

この本を読んで一番感動するのは、先祖の苦しみを初めて知った孫氏自身なのかもしれない。


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