2016年10月29日土曜日

すぐわかる正倉院の美術―見方と歴史

今年も正倉院展の季節がやって来た‼

米田雄介著
東京美術


めっきり秋らしくなりましたね。
そう、秋と言えば正倉院展ですよね。
毎年楽しみにしています。
いつも帰りに正倉院展に関する本を一冊と、抹茶味のお菓子を買うのが私のお約束。
その本を翌年までとっておいて、正倉院展に行く前に読み、気分を盛り上げるのです。

この「すぐわかる 正倉院の美術」は、去年訪れた時に購入しました。
著者は、宮内庁正倉院事務所長をされていた方です。

正倉とは、「大事な品物を収納しておく倉」という意味の普通名詞だったって知ってました?
そんな豆知識から、
双六賭博が盛んで、持統天皇の頃(689年)から何度も禁止令が出されていたにもかかわらず、借金に苦しむ人が後を絶たなかった、
などのこぼれ話まで、正倉院の宝物にまつわるあれこれが、易しく解説されています。

そしてメインはなんといっても宝物の写真と解説です。
小さいながらも十分楽しめるカラー写真と、由来・材質・技法などが簡単に説明されていて、正倉院気分を盛り上げてくれます。
宝物ひとつひとつにはそれだけで本が書けるくらいの歴史がありますが、そんなお宝が無数に(約9000点とも数十万点とも言われている)あるのですから、駆け足の説明になってしまいますが。

今年の目玉である「漆胡瓶(しっこへい)」はもちろん、主だった宝物は網羅されていて、専門家でもなんでもない、ただの正倉院展好きの私にはぴったりです。

そして今年も大混雑のなか、行って来ました。
贅を尽くした宝物、超絶技巧の緻密さ、人の息吹を感じる残欠。
昔の人に思いを馳せ、来年用に一冊とお菓子を購入して、大満足の1日でした。

宝庫と宝物が現存するのは、奇跡や幸運のなせるわざではない。今も昔もその管理に当たる人たちが、つねに保存のために努力を積み重ねることで、さまざまな突発的な事件・事故に対応してきたからなのである。

こうして毎年楽しむことができるのは、多くの方のおかげなのですから、感謝しないといけませんね。
ありがとうございます。

※正倉院展はお一人さまで行くにかぎります。同行者が帰りたそうな雰囲気だったり、別行動しても待たせる時間が気になってしまい、ゆっくり自分のペースで見られないからです。

今年の正倉院展ポスター
メインの「漆胡瓶」

月餅ではなく「日餅(にっぺい)」
抹茶味の生地
中にあんこ

2016年10月27日木曜日

月は無慈悲な夜の女王

月が地球から独立を宣言した!!SFに挑戦第2弾

ロバートA・ハインライン
早川書房

 

池澤春菜さんの書評集「乙女の読書道」を読んで、今まであまり読んでいなかったSFに挑戦してみようと思ったのです。
春菜さんが初心者におすすめとおっしゃる「夏への扉」を読んでみて、こういう話なら大丈夫、次に何を読もうかなと手にとったのがこの「月は無慈悲な夜の女王」でした。
「夏の扉」と同じくハイラインの作であり、ヒューゴー賞受賞の傑作ということで間違いなく面白いだろうと思ったのです。

現物を見て驚きました。
679ページの分厚さ、文庫本にして1200円超です。
しかも、翻訳物にはつきもの登場人物一覧表がついていないのです。
SF初心者なのにこんな大作を読めるだろうか?と不安になりつつも、まぁ途中で挫折してもいいやと開き直って読み始めました。

2075年、地球政府の圧政に苦しんでいる月の住人たちが独立を宣言し、地球に立ち向かっていく・・・というお話です。

主人公はコンピューターの技術者であるマニーです。
彼は、なんでもできる強いヒーローというわけではなく、飄々とした感じの人物です。
行政府の記録に「政治色がなく、あまり聡明でない」と書かれていたほどです。
そんなマニーですが、自意識を持った巨大コンピューターの「マイク」と出会い、成り行き上先頭に立って地球に対抗することになったのです。

コンピューターの「マイク」がいつ人間たちを裏切るのだろうかとドキドキしながら一気に読んでしまいました。
(結果的には私の予想は大幅に外れてしまいましたが。)

ストーリーは地球VS月という単純な構図なのでわかりやすく、登場人物も一度にたくさん出てくるのではなく徐々に増えていきますし、「マニー」「ワイオ」など短い名前が多いので、登場人物一覧がなくても大丈夫でした。(→これ私にとっては結構重要なのです。)

1965年に発表されたものだそうですが、現在より未来である2075年の設定だからでしょうか、今読んでも全く違和感がありません。
ただし、訳は1976年のものですからさすがに古く感じる箇所もあり、例えばコンピューターとするところが「計算機」となっていたりします。

SFに手を出さなかった理由を私なりに考えてみると、
・その独特な世界観に入り込むまでは、あまり面白さを感じられない。
・理系の難しい話が出てくる。
ということかもしれません。

読んでいけば自然とその世界観に入り込めるし、理系の話は「ふんふん、そうなんだ。」と気軽に読み流していけばいいと気がつきました。
これだけの長編を面白く読めたことから、次も古典を中心に少しずつSFに挑戦していきたいと思います。

つづきの図書館

王様!若い娘じゃなくたって、突然裸で出てきたら驚きますよ!
  
柏葉幸子著
講談社



桃さんは、内気で不器用な40過ぎの女性。
わけあって、生まれ故郷の図書館に司書として勤め始めました。
その図書館で、「はだかの王様」の本から出てきた王様と出会いました。
王様は、自分の本を何度も借りた少女のその後、つまりその子の「つづき」が知りたいと言うのです。
最初はびっくりしていた桃さんですが、王様と協力して「つづき」を探っていきます。
その後、おおかみやあまのじゃく、幽霊までもが、自分の本を読んだ子どもたちの「つづき」が知りたいと桃さんに頼んでくるのです。
しかも、桃さんの家に居座りながら!

登場人物たちがとても魅力的ですぐに夢中になりました。

だってね、王様なんか 「その歳だ。今までに不思議なことの1つや2つ、驚いたことの3つや4つ、なかったとは言わせん。わしを見たぐらいで、若い娘でもあるまいに、悲鳴などあげんでくれ。」 なんて言うんですよ!
ビミョーなお年頃の桃さんに向かって。
しかも、自分は裸なのに威張った王様口調で。

あまのじゃくも桃さんのことを 「おにばばぁ!」 と言ったり、小さな男の子ですから落ち着きなく飛び回ったり……
本の中から出てきたみんなが桃さんを困らせます。
だけどみんな桃さんが大好きで、桃さんも彼らのあしらい方に慣れていきます。
そのやり取りもクスクス笑っちゃうほど面白いのです。
内気だった桃さんも、みんなと接しているうちに心が溶けてきて、大胆なことまでしてしまいます!

突然やって来たお別れは、寂しくてホロっと涙が出ました。
でも、だんだんとピースがはまっていき、最後は拍手したくなるのです。

楽しくて面白くて、ちょっぴりせつない物語。
大好きな、大切な一冊になりました。

  ※ちなみに私が子どもの頃、一番ぼろぼろになるまで繰り返し読んだのは、素敵な物語……と言いたいところだけど、「からだのヒミツ」でした。
ヒトちゃん、私のつづき知りたがってるかな?