2014年1月11日土曜日

パンダ飼育係

阿部展子著
角川文庫





本書は、パンダが好きで上野動物園のパンダ飼育員になった女性が書かれた本です。
幼い頃、祖母からもらったパンダのぬいぐるみに出会ってから、著者の阿部展子さん(1984年生まれ)はパンダが大好きになったそうです。
高校生の時、「パンダが好きなら、パンダを仕事にすればいいんじゃない?」と言われ、パンダに関わる仕事をしようと決意します。
そして、大学の中国語学科に入学して中国語をマスターしてから、中国でパンダの専門分野を学ぶという遠回りの道を選択するのですから、黒柳徹子さんもびっくり!のパンダ好きの女性です。

その後実際に、阿部さんは勉強に励み、四川農業大学に留学します。
その大学では、阿部さんが初めての外国人本科生だったそうです。
外国人が少ない訛りの強い地域で、苦手な理系の勉強をする・・・とても苦労をなさったと思います。
でも、勉強が大変だったという話はしても、嫌な目にあったなどあまりネガティブなことはおっしゃらない、努力家で前向きな方なのです。
見た目は、可愛らしいお嬢さんといった感じなのですが。

日本では動物園で一番人気のパンダですが、中国ではパンダに対する興味が極めて低いことに阿部さんは驚きます。
「どうしてそんなにパンダが好きなのかわからない。変態だ。」とまで言われてしまったそうです。
かわいい文化の違いなのでしょうか?

フワフワしているというイメージに反し、硬くゴワゴワした油っぽい毛。
自分の尾や後肢を噛めるほど身体が柔らかい。
など、あまり知られていないパンダの秘密(?)もたくさん書かれていました。

中でもビックリしたのは、飼育されているパンダは後ろ肢を鍛える筋力トレーニングが必要だということです。
交尾の際、オスは後ろ肢だけで立ち上がり、メスも背中に覆いかぶさるオスを支えるだけの後ろ肢の力がないと、すぐに潰れてしまい成功しない。
だから後ろ肢の筋力が必要不可欠で、小さな頃から筋トレをしなくてはならないのだそうです。
いつか来るその時のためにパンダが筋トレに励む・・・パンダには申し訳ないけれど、笑ってしまいました。

ぬいぐるみのような姿をしていてもやっぱりパンダは獰猛な面を持つ猛獣で、体重も重く噛まれることもあり、飼育員は体力と根気が必要な大変な仕事だと思います。
パンダが好き好きで、努力して飼育係になる夢を叶えた・・・応援したくなる素敵な女性のお話でした。

2014年1月8日水曜日

西荻窪の古本屋さん 音羽館の日々と仕事

広瀬洋一著
本の雑誌社



「古本屋」というと、昔は暗くホコリっぽい店内の奥に気難しそうなおじさんが座っている・・・そんなイメージでしたが、ブックオフ以降そういった店舗は少なくなっているようです。
でもそんなブックオフだって、遠い昔に行ったことがある1号店2号店は、狭くて暗いホコリっぽいお店だったのです。
ブックオフが今のようになる前、三浦しをんさんが働いていたことでも有名な 高原書店 がPOPビルに移転したときは、広くて明るい店内に驚き、よく通っていたものでした。

そんな高原書店で働き、その後独立したのが、この本の著者・広瀬洋一さんです。
本書で「ブックオフのやり方は高原書店がモデルになったのかな?」とおっしゃっていますが、私もそうだと思っています。

広瀬さんは、大学時代高原書店にアルバイトとして入り、その後正社員になって10年間勤務します。
そこで古本を商うことの面白さ、接客の楽しさに目覚め、一緒に働いていた奥様と共に、2000年に西荻窪で古本屋「音羽館」をオープンしました。

新刊書店でも個人経営のお店はなかなか厳しい時代なのに、古本屋さんで人を雇いながら14年も続いているのはすごいことではないでしょうか。
しかも、古本屋を始める多くの若者が、この「音羽館」をモデルにしているというのですから。

万引きや嫌な客の対応に疲れ、ネット通販専門の古本屋さんになる方も増えているそうですが、この広瀬さんは「お客さんと対面することが販売の醍醐味」だと言い切って、店売りにこだわりながら頑張っているのです。

本書は、広瀬さんが高校時代に出会った恩師との思い出、高原書店時代の仕事ぶり、独立してからの苦労、古本屋さんの業界事情などが綴られています。
なので、本好きの方が楽しめるのはもちろんのこと、古本屋開業を目指す方にも参考になるのではないでしょうか。

また、三浦しをんさんから「由佳子ねえさん」と呼ばれている奥様は、女子美の絵画科のご出身だそうで、音羽館のキャラクター「おとわちゃん」や本書の可愛らしい挿絵を担当されています。
御夫婦二人三脚で楽しそうに働いている様子がこちらにまで伝わって来て、なんだか温かい気持ちにもなりました。

「音羽館を語る」というコラムでは、「女子の古本屋」 などを執筆されている古本ライター・岡崎武志さん、歌人の穂村弘さんらが音羽館の魅力について語ってらっしゃいます。
読んでいるうちに、行ったことがない私でもすっかりファンになってしまいました。

すぐにでも行ってみたいけど、我が家から西荻窪は、とてもとても遠いのです。
現在近所に古本屋さんはないのですが、近くにこんな古本屋さんができたら通い詰めちゃうだろうなぁと夢をみるしかなさそうです。

2014年1月1日水曜日

総理の夫

原田マハ著
実業之日本社

政治関係の難しい話・・・ではなく、これは恋愛ドタバタコメディだ!



東大理学部・同大学院卒のイケメン。
職業は鳥類研究所勤務の鳥類学者。
実家は日本を代表する大財閥で、自分の資産もあり、現在は祖父のお屋敷に住んでいる。
優しくてお人好しで涙もろく、妻をこよなく愛する38歳。

本書は、そんな「理想の結婚相手」のような男が主人公の小説である。
なんて昔の少女漫画的な設定なんだろうか。

そして奥様は、東大からハーバード大学院へ進んだ秀才。
父は有名小説家、母は国際政治学者。
31歳で国会議員に初当選した直進党党首。
現在は、女性初の内閣総理大臣、42歳。

完璧なエリート女性、しかも美女で総理大臣。
ますます漫画チックな設定である。
この現実離れした物語は、「総理の夫」である 相馬日和 がつけている日記という形式で進んでいく。

冒頭から、主人公の相馬日和・通称「ひよりん」の妻に対する愛が炸裂していく。
多忙を極める妻を支え、心配し、愛し続ける。
なんて素敵な方なんでしょう!
読み始めてすぐに「ひよりん」ファンになってしまった。
題名を「総理の夫」から「理想の夫」に変更してもいいんじゃないだろうか。

自分では、肉体派の男が好みだと思い込んでいたのだが、この主人公「ひよりん」のような文系・内向的男子も好みなのかもしれない。

二人の出会いにキュンキュンし、
公邸に移ってますます多忙になった妻とのコミュニケーションが薄くなり寂しく感じる「ひよりん」に同情し、「たとえ世界中が敵になったとしても、君の側につく。君を守る。君についていく。」の言葉にノックアウトされてしまった。
そんなセリフを言える男性が現実にいるだろうか?
いないからこそ読者はこの物語に夢を見るのだ。
(いや、もしかしたら地球の片隅に棲息しているかもしれないが)

他の方がこの小説を読んでどう感じようと、私にとってはこれはギャグを散りばめながら理想を描いた恋愛コメディなのだ。
原田マハさん、私の恋愛のツボをよくご存知だなぁ。