2013年6月19日水曜日

64(ロクヨン)

横山秀夫著
文藝春秋

こんな警察小説を待ちわびていた!



昭和64年。
すぐに平成になってしまったため、1月7日までしかなかった年。
その昭和64年に、D県で未解決少女誘拐事件が起こった。
身代金2000万円を奪われた上、少女が殺害され、犯人は未だに捕まっていない。
「ロクヨン」とは、その事件の符丁である。

主人公は刑事部出身で、いつかは刑事に返り咲きたいと考えている広報官の三上警視。
記者クラブと対立し、家庭の弱みを握られている上司からはつつかれ、板挟みに悩んでいる。
まさに中間管理職だ。
そんな中、地方警察にとって雲の上の存在である警察庁長官が「ロクヨン」の視察にやって来ることになった。
長官取材のボイコットをちらつかせる記者クラブ、服従させようとするキャリアの警務部長、悩む広報官・三上に、さらなる難問が襲いかかる・・・


横山秀夫氏による7年ぶりの新作であり、昨年の話題作であったこの「64」
待ちわびていた本書を、やっと手に取ることができた。

警察小説といっても、主人公は事務方の広報官であり、派手なアクションなしに心理戦の様が丁寧に描かれていく。
刑事の多くは、広報室に情報を流せば記者に筒抜けになってしまうと思い込む。
一方広報室は、記者たちに組織ぐるみの隠蔽だと非難される。

東京と地方、キャリア対ノンキャリアだけでなく、刑事と事務方の根深い対立と攻防。
憶測や疑心、妬み嫉み、反感や敵意、そして保身が渦巻く警察内部の勢力争いが、緊張感をもって展開されていく。

ああ、これこそが横山秀夫氏の小説だ。
警察小説でもあり、人間小説でもある傑作だ。
評判が高いのも納得の一冊だった。

2013年6月8日土曜日

女もたけなわ

瀧波ユカリ著
幻冬舎



たけなわ。
真っ盛り。その後は、衰えていく。
ということは、女の「たけなわ」はいつなのだろうか。
昔は番茶も出花の18歳頃がそうっだのかもしれないが、今は10代後半から30歳くらいまでかなぁ。
そう考えると、私なんか「たけなわ」をとっくに過ぎてしまっている。
でも、80歳過ぎても「たけなわ」な方はいっぱいいらっしゃるだろう。
いつまでも「たけなわ」でいたいなぁ。

本書は、漫画家の瀧波ユカリさんが「GINGER」に連載したものを再構成したエッセイ集である。
目次には、「彼氏を作る意外な方法」「イケメンは尻で箸を割るか」「配偶者、なんて呼ぶ?」「デカ目卒業宣言」・・・と気になる題名がずらっと並んでいる。

そうそう!と笑いながら頷きたくなる話もあれば、それはちょっと違うのでは?という話、そこまで言うか~という話など、バラエティに富んだエッセイが漫画付きで42編掲載されている。

「男性からのプレゼントは素直に感謝できないものが多い」という著者は言う。
確かに残念な気持ちになってしまうプレゼントは時々あるなぁと私も感じている。
本書に書かれているように、彼氏から「ポシェット・ソーイングセット・防犯ブザー」の3点セット、サイズが小さすぎる好きでもないアンジェラ・アキのライブTシャツ・・・そんな贈り物をもらったらどう反応すればいいか困るだろうなぁ。
私のいとこも2回目に会ったお見合い相手の女性に、誕生日プレゼントとして便器の置物をプレゼントしてしまったことがある。
すぐにお断りの連絡があったのはもちろんだ。
本人は、ウケ狙いで渡したらしいのだが。

激しく同意したのは、「ムキムキ男が苦手だったのに、年とともに筋肉男子のとりこと化した」という点だ。
私も、前はそうでもなかったのに今は筋肉に見入ってしまうし、男性アイドルの薄っぺらい胸板を痛々しく感じてしまう。
それは、歳をとったということなのだろうか。

女同士の会話にはテクニカルな作法が必要不可欠で、祝福と羨望を混ぜた言葉をかけなくてはいけないとか、未婚VS既婚、子持ちVS子なしの対立を煽るような発言は、ちょっと眉をひそめてしまった。
そこまで私の周りの女子は意地悪じゃないし、そんなこと考えながら友達付き合いしてない。
友人との会話にそこまで気を遣わなくてはならない著者は大変そうだ。

また、好きになった相手なら即日対応OKとか、性病検査を受けたらクラミジアだったとか、奔放な交際をあけすけに告白しているが、サービス精神旺盛だなぁとは思うが、ちょっと引いてしまう。

ああ、女って難しい。

2013年6月4日火曜日

脳はこんなに悩ましい

池谷裕二、中村うさぎ著
新潮社




本書は、脳研究者の池谷裕二氏と中村うさぎさんの対談集である。

脳について、素人が専門家に色々と質問する・・・そんな構図を想像していたのだが、
いやぁ、素人というには中村うさぎさんはあまりに鋭く、知識も豊富で驚いた。

お二人は、最新の論文をもとに様々な事柄について語り合っていく。

「他人の失敗を喜ぶ」ことは醜いと言われるが、脳は喜ぶようにプログラムされている。
何かを暗記するときには、眺めて覚えるよりも確認テストを何度もした方が記憶の定着がいい。
精子には、味覚センサーや臭覚のアンテナがある。
言葉を話す鍵となる遺伝子「FOXP2」をネズミに組み込むと、鳴き方が変わった。・・・

話題が次から次へと目まぐるしく変わり、読者を飽きさせない。

中でも一番気になったのが、遺伝子の話題だった。
お二人が、99㌦で遺伝子検査を受けたのだ。

お二人の両親ののルーツ、髪の毛の特徴、耳アカのタイプから、ガン、心臓疾患、精神病などの病気になる可能性、アルコール・ニコチン・カフェイン・ヘロインの依存性までわかってしまうのだからちょっと怖い。

また、ヒトにも「浮気遺伝子」があり、それを持っている人は、離婚率が2倍以上も高いらしい。
ということは、浮気もその人のせいではなく、遺伝子のせいだという言い訳も成立するのだろうか。

将来、遺伝子で相性をマッチングする結婚相談所ができるかもしれない。
そうなった場合、浮気遺伝子を持たない男が人気になるのだろうか。

肥満遺伝子は有名だが、遺伝子検査で高脂肪食で太りやすいとか、食事制限によるダイエットは効果が弱いとかまで、分析できるそうだ。
ああ、私が太っているのもきっと遺伝子のせいなのだ。
せっかく痩せようと決意しているのに、いくら努力しても生まれつき太るようにプログラミングされているのなら、悪あがきはやめて好きなものを好きなだけ食べたほうがいいのだろうか。
効率よく痩せるために、遺伝子を調べてもらったほうがいいだろうか。
でも、悲しい結論を突きつけられたらショックだな。
う〜ん、悩ましい。