2012年8月5日日曜日

南極1号伝説 ダッチワイフからラブドールまで--特殊用途愛玩人形の戦後史

南極1号伝説 ダッチワイフからラブドールまで--特殊用途愛玩人形の戦後史
高月靖著
バジリコ

特殊用途愛玩人形について、歴史から素材・現状・未来まで一通り網羅し解説している、入門書としても最適な一冊。




もともと水夫たちの「航海の妻」として、また兵隊たちの病気予防として発達した特殊用途愛玩人形は、現在素材的に空気式・ゴム製・シリコン樹脂製、また形状的には枕タイプ・トルソタイプ・全身タイプと分けられる。
価格も空気式の1000円台~シリコン製の100万円台まで、それぞれ使用感も大きく異なり、多様化する消費者のニーズにこたえる品揃えとなっている。

この業界が大きく様変わりしたのは、ネットの普及であるという。
誇大広告に引っかかったり、粗悪品を掴まされたりしても、商品の性質上文句も言いにくかったのだろう。
ネットにより、広告を比較し、体験者の声を聞き、マニア同士のコンタクトも可能になった。
そして何より注文がしやすくなったのだ。

本書は、そんな愛玩人形について写真付きで丁寧に解説してくれる良書である。
とりわけ開発者たちの涙ぐましい苦労話は、彼らの情熱への感動とともに、ここまでこだわるのかと驚いた。

マニアの方々は細かい部分にまでこうでなくちゃというこだわりがとても多い。
髪型・衣装・サイズだけでなく、リアルな質感・自由な伸縮性・扱いやすさ・実用にも鑑賞にも耐えられる見た目・耐久性・手入れのしやすさ・使用感・・・と、消費者のわがままなニーズに応えなければならないのだ。

しかしなんといっても、人形は顔が命だそう。
コストパフォーマンスとクォリティの両立に苦労する彼らが目に浮かぶ。

そして、ニーズは少ないが男性の人形もあり、ユーザーは男性だというのは驚きだった。。

その後、代表的な4つのメーカーのインタビューと続くのだが、各社特徴のあるラインナップで差別化を図っている。

一番興味を惹かれたのが、愛玩人形を擬人化して人間のパートナーのように扱うドーラーと呼ばれるマニアたち。
はけ口としてだけでなく、着替えさせたり写真を撮ったりと、まさしく愛玩している。

中でも普通のサラリーマンだという「Ta-bo」さんは、これまでに2000万円以上投資したという。
数十体の人形がリビングルームを占領している写真は、夜中に見たら怖いなぁとひいてしまう。
しかし、業界では「御大」であり、メーカーにアドバイスしたり、ブログ「たぁー坊の着せ替え資料室」の更新が少しでも途絶えると、2ちゃんねるで再開を願う声と共に叩かれるという。

ところで、表題の「南極1号」だが、公式には認めれれていないが「弁天さん」という名前で実在したが、純潔のまま帰国の途に就いたという。

2012年8月4日土曜日

宇田川心中

宇田川心中
小林恭二著
中央公論新社

生まれてからずっとあなたを待っていた。逢ってもいないうちから、あなたの事を想っていた。



先日、男子高校生から恋愛相談を受けた。
「コクって付き合う事になったのに、部活が忙しくなかなか遊ぶ時間が取れなかったら、1週間でフラれた」というのだ。
そんな話はザラにある。3日で別れた、6時間で別れた・・・というのも聞く。
そういうのは付き合ったうちに入らないと思うのだが。

彼らの恋愛には、「障害」が少ない。
連絡を取ろうと思ったらいつでも取れる。
そして、ちょっとでもイヤな面が見えたら躊躇なく別れてしまう。

私が中高生の頃は、家電(いえでん)に掛けなければならなかった。
親が出たらどうしよう、遅くなったからもう掛けられない、などいつでも好きな時に連絡を取ることは難しかった。

もっと前は電話もなく、人目を気にしなくてはならないため、恋する二人の「障害」は今とは比べものにならないくらい大きかっただろう。

会えない間に、相手の事を考え身を焦がし、
「障害」があればあるほど、恋の炎は燃え上がるのだ。

本書は、江戸末期の恋愛模様を中心とした「出会ってしまった二人」の物語である。
女は、許婚のいるお嬢さん。
男は、恋愛禁止の僧。
「障害」MAXのシチュエーションである。
燃え上がらないわけないのだ。

そして、二人は純粋に惹かれあう。
お金や家柄、学歴につられたわけではない。
そのピュアさが今となっては新鮮ではないか。

近松チックな時代劇のようでもあり、SFファンタジーのようでもある恋愛物語。
読み終わり、身を焦がすような恋に今更ながら憧れてしまう。
そしてこれから街に出た時、会った瞬間にわかるという「運命の人」をキョロキョロ探してしまいそう。

今年の夏は、「障害のある恋」に身悶えしてみてはどうだろう?
妄想だけなら、どんなに燃え上がっても人に迷惑かけないのだから。
倦怠期の方はわざと「障害」を作ってみるのもいいかもしれない。

2012年8月1日水曜日

英国大使の御庭番

駐日英国大使館専属庭師の孤軍奮闘25年日記
英国大使の御庭番 傷ついた日本を桜で癒したい!
濱野義弘著
光文社

日本で最後の英国大使館の専属庭師として働いた著者の25年。



町の植木屋さんとして働いていた25歳の青年が、「英国大使館住込庭師募集」という新聞広告を見つけた。
Tシャツにジーンズ姿で気軽に面接を受けに行き、その後25年にわたって大使館の御庭番として働いた著者の自伝である。

大使館の敷地1万坪のうち、大使公邸の1千坪を任された著者の目に飛び込んできたのは、荒れ果てた庭だった。
それを見た著者は、元の美しさを取り戻したいと俄然やる気になるのだった。

英国大使館は武家屋敷跡に建てられたためか、人骨・古銭など様々なものが出土したり、大使夫人に「周りから丸見えになるからあまり木を切るな」と言われながら、著者は孤軍奮闘していく。

日本の企業と違い、ゆるい雰囲気の中一人で働いているため、サボろうと思えばいくらでもサボれるような状況で、著者は懸命に働く。
夜は夜で、花の管理の本を読み漁る。
もともと生真面目な方なのだろう。

かつて弟子として働いていた頃の回想で、「師匠が行く現場なら、賃金がもらえなくても一緒に仕事をしたい。この人とやれば腕が上げられると心から思える人でした」と著者は言う。
その文章を読んだ時、私は心を鷲掴みにされてしまった。
職人の鑑ではないか!!

10年かけて満足いく庭になったと思ったら新しい大使夫人に、「今あるもの全て引っこ抜いて、新しいバラの花壇をすぐに作ってください」と言われてしまう。
自分の思い通りの庭造りができないジレンマの中、著者は精神的にも成長していく。

私生活でも苦労されたが、「庭師は年中無休の仕事だ」と言いながら、都会のど真ん中にある「自然の王国」を維持してきた著者に感動する。

この本を読んで、著者の魅力にとても惹かれてしまったのだが、やはり私は「男の髪の毛は短ければ短い方がいい。ベストは禿頭」と考える。
表紙でにっこりほほ笑む著者の長髪が、坊主頭であったら、もっとかっこいいのにと思う。