2014年6月9日月曜日

ことり

小川洋子著
朝日新聞出版

小川洋子さんの醸し出すこの雰囲気大好き!!社会の片隅でひっそりと生きる「小鳥の小父さん」の一生。なんて静かな、なんてせつない物語なのだろう。



ストーリーに夢中になり、先が知りたいと読書に没頭するような物語。
その小説の世界観や醸し出す雰囲気が好きで、いつまでもこの世界に浸っていたいと思う物語。
その両方を満たす素敵な小説を見つけた。
それがこの「ことり」である。

「小鳥の小父さんが死んだ」という場面から始まるこの小説。
小父さんは両腕で竹製の鳥篭を抱きながら、亡くなっていた。
そして、その鳥籠の中では小鳥が一羽、止まり木の真ん中におとなしくとまっていた。

小父さんは二人兄弟だった。
兄は自分で編み出した〝ポーポー語〟という不思議な言葉を喋り、その言葉を理解できるのは弟である小鳥の小父さんだけだった。
変化を好まない彼らは、社会の片隅でひっそりと暮らしていた。
その後両親も兄も亡くなり、保養施設の管理人をしながら、近所の幼稚園にある鳥小屋の世話を誰に頼まれたわけでもないのに、懸命にこなしていく。
そんな小鳥と共に生きた小父さんの、波瀾万丈ではない、静かな一生の物語である。

冒頭から文章がビンビンと琴線に触れる、琴線ビンビン物語でもある。

小川洋子さんの小説では、奇抜な設定がよくみられる。
例えば「博士の愛した数式」で、博士が大切なことを記したメモを忘れないように体中に貼り付けていたような。
「ミーナの行進」で、ミーナがカバに乗って通学するような。
「猫を抱いて象と泳ぐ」で、唇が癒着していた少年に脛の皮膚を移植したため、唇から脛毛が生えてきたような。

その部分だけ抜き出すと奇抜で滑稽な設定だが、それぞれの小説に浸りながら読んでいると、不思議とすんなりその設定を受け入れ、滑稽さはあまり感じない。

この「ことり」でも、1泊2日の旅行に、靴墨や砂時計などを詰め込みトランク3つにもなってしまったり、成人男性が棒付きキャンディーを買うのを楽しみにしていたり、といった独特の描写がいくつも見られる。
現実離れした設定のような、それでいてありふれた日常のような、独特の世界が広がっているのだ。
相手を傷つけない思いやりや優しさが溢れている、読み終えるのがもったいない、そんな物語だった。

2014年6月5日木曜日

妻の化粧品はなぜ効果がないのか 細胞アンチエイジングと再生医療

北條元治著
KADOKAWA



図書館でドキッとするタイトルを見かけ、思わず借りてきてしまいました。
なぜなら、私にとって今まさに〝旬〟の話題なのです。
いつも使っている化粧水をうっかりきらしてしまい、仕方なく娘の安い化粧水をつけたところ、これがしっとりしてつけ心地がとてもいいのです。
値段はいつもつけている化粧水の1/10以下。
だったらわざわざ高いの買わなくても、これでいいんじゃないか?
いやいや、年齢的にシミやシワにも効くものじゃないと・・・
悩めるお年頃なのです。

本書は、ショッキングな題名から想像した内容とは違い、再生医療の専門家である著者が、アンチエイジングについてわかりやすく解説しているものです。

見た目が老けている人は、血管の老化現象も進んでいて、「肌が若く、体の中の老化が進んでいる」とか「肌は老化が進んでいるが、内蔵や血管は若々しい」というケースはほとんどないそうです。

・老化の大きな原因は「紫外線」「酸化」「糖化」である。
・皮膚組織がコラーゲン・ヒアルロン酸を直接吸収することなどありえない。
(ただし、保湿には効果あり。)
・化粧品が浸透するのは、表皮の一部「角質層」までであり、薬事法でも化粧品の作用が及ぶ範囲は角質層までと決められているため、スキンケア化粧品に期待はできない。

もっと若く、もっと美しくと願う乙女たちに、辛い現実が突きつけられます。

そして、肌の老化防止法は、保湿と紫外線対策だけだと、わかりやすく説明してくれるのです。
だから、安くていいからシンプルな保湿効果のあるものを使いましょうと。

じゃあ、やっぱりこのまま娘の安い化粧水を使い続けていいということ?
でも、化粧品会社だって多額の資金を使って研究しているわけだし、少しぐらい効果があるのでは?
乙女心は複雑でもあるのです。

他にも、iPS細胞について、「酸化」「糖化」についてなど、アンチエイジングの最前線をわかりやすく説明してくれます。
目新しい話題はないけれど、極端な考えに走ったり、過激な方法を推奨するということもないので、かえって信用できる気がします。

でも結局は、地道な努力で老化を食い止めるしかないのでしょうか。

2014年6月1日日曜日

乙女の読書道

池澤春菜著
本の雑誌社

乙女をなめたらあかんぜよ!超のつく読書狂の乙女でもあり、「文筆界のサラブレッド」でもある著者の書評集。



子供の頃から読書好きで、自他共に認める重度の活字中毒。
寝なさいと部屋の電気を消されても、お布団の中に懐中電灯を持ちこんで本を読んでいた。
母が先生に「本を読みすぎて困る」と相談し、読書を推奨している立場の先生を困惑させた。
学校の図書館の本は全部読んだ。

そんな「本好きあるある」のようなエピソードをお持ちの著者・池澤春菜さん。
同じ本好きとしてとても親近感が湧いてきます。

学校の行き帰りの道も歩きながら読み、授業中も、食事中も読む。
小学3年生の時に、本屋でシリーズものを読み始め、続きが読みたくて数軒ハシゴしながら夢中で読みふけっていたら、夜の9時を過ぎていた!
慌てて帰宅すると、家の前にパトカーが停まっていて大騒ぎになっていた。
ここまで来ると、ご本人がおっしゃる通り筋金入りの「読書狂」です。

池澤春菜さんは、声優・歌手・エッセイストとして活躍しながら、今でも年間300冊以上の本を読まれているそうです。
そして、お父様が作家の池澤夏樹さん、お祖父様が作家の福永武彦さん、お祖母様が詩人の原條あき子さんだというのですから、文筆界のサラブレッドとも言えるのではないでしょうか。

表紙の可愛らしい女性はご本人で、まさに「乙女」といった雰囲気が漂っています。
後ろの整頓された本棚はご自宅のものだそうで、どんな本があるのか、どんな並べ方をしているのか、まじまじと見てしまいました。

本書は、そんな「読書狂乙女」の池澤春菜さんが、「本の雑誌」等に連載したものをまとめた書評集です。
池澤夏樹さんとの親子対談や、紙の本禁止令が出されiPodと過ごした1週間の体験記も掲載されていて、とても読み応えがあります。

掲載されている書評は、児童文学やハーレクイン、お父様・お祖父様の作品もありますが、お好きだという翻訳もの、それもSF・ファンタジーに偏っています。
SF愛に満ち溢れた書評なのです。
ほとんどSFを読んでこなかった私が、本書に取り上げられた中で読んだことあるのは、「開かせていただき光栄です」と「ビブリア古書堂シリーズ」ぐらいでした。

この書評集の最大の特徴は、文章から ☆キラキラ☆ や ♪音符♪ が飛び出してくるような印象を受けることなのです。
といっても乙女チックな可愛らしい輝きももちろんあるのですが、それだけではなく、なんというか、子供が好きなことに夢中になっているような、ウキウキやワクワクが伝わってくるのです。
ご本人が、面白くてたまらないと夢中なっている様子が目に浮かんできます。
だから、読んでいてとても楽しくなってくるのです。
そして、池澤春菜さんがそんなにも面白いとおっしゃっているなら読んでみたい!と思ってしまいます。

おかげで読みたい本リストがまたまた伸びてしまいました。
迂闊に手を出したら火傷しそうな魔性の本なので、どうかご注意ください!

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著者のインタビューより
国語のテストで、父の小説から問題が出たことがあって。「このとき作者は何を考えていたのか答えよ」という問題。その日家に帰って、父に「何を考えてたの?」と訊いたら、「〆切のことしか考えてなかった」(笑)。それで翌日先生のところへ行って、「父は〆切のことしか考えてなかったそうなんですけど、その場合何番を選べばいいんでしょう?」と訊いたら「もういいです」って(笑)。きっとやりにくかったと思います。