2013年9月3日火曜日

桜ほうさら

宮部みゆき著
PHP研究所



「書は人なり」。
綴る文字には人となりが表れるというが、字が汚い私はいつも人前で字を書くのが恥ずかしくてならない。
本書は、その書いた文字が重要なテーマとなっている宮部みゆきさんの時代小説だ。

主人公の古橋笙之介は、深川の長屋で貸本屋の写本作りの仕事を請け負いながら暮らしている。
実は彼、浪人とはいえ痩せても枯れてもお侍さんなのだ。
書いた覚えのない文書を証拠に、賄賂を受け取った責任を問われ切腹した父の汚名をそそぐため、江戸近郊の小藩からやってきたのだ。
父を陥れた、他人の筆跡をまねて字を書くことの出来る人物を探すために。

家族のように世話をやく長屋の住人たちに囲まれながら笙之介も成長し、淡い恋をしながら事件の真相が明らかになっていく・・・
題名の「桜ほうさら」とは、甲州弁の「ささらほうさら」(いろんなことがあって大変だ、大騒ぎだ)から来ている。

貧乏ながらも肩寄せあってたくましく生きる長屋の住人たち。
それぞれが胸に悲しみを抱え、懸命に前へ進む姿が胸をうつ。

あの暗号文は結局どんな規則で読むのだろう、あの人の身に何があったのだろうなど、疑問も残るがそんなことはどうでもいい。
この切なく温かい小説で、とても癒されたのだから。

いいことばかりではなく、辛いこともたくさんあるけれど、
「ささらほうさら」と呟いたからって解決するわけではないけれど、
その綺麗な語感に慰められ、落ち着いてくるような気がする。
やっぱり宮部みゆきさんの時代小説はいいなぁ。

挿画について

淡い桜色の表紙も可愛らしく、全ページ上部に桜の花びらが散らしてあり、素敵な装丁だと思う。
ただ、人物の漫画チックな挿絵は、個人的にはない方がいいと思う。
いや、はっきり言うと後ろ姿はいいが、顔は描かないで欲しかった。
読みながら自分の好きなように人物を想像したいからだ。
この顔はかわいすぎて、私の中のイメージとはだいぶ違っている。

この物語に限らず、小説には人物の顔の挿絵は必要ないと思う。
映像とは違う、絵本とも違う、活字の世界だから、自分の好きなように想像しながら読みたいから。
見ないようにすればいいだけの話なのだが。

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