デパ-トを発明した夫婦
鹿島茂著
講談社現代新書
女性の贅沢願望に火をつけろ!買わずにはいられない店。 デパートを発明した夫婦の戦略。
デパートの思い出を綴ったエッセイ「あのころのデパート」 の中で本書「デパートを発明した夫婦」を知り、伝記ものが大好きなので手にとってみた。
残念ながら夫婦の生い立ちや私生活にはほとんど触れておらず、夫婦の伝記というより「初のデパートと言われる『ボン・マルシェ』の歴史」とでもいうような内容だった。
しかし嬉しい誤算で、これがとても面白かったのである。
アリスティド・ブシコー(1810-1877)は地方の貧しい帽子屋の息子として生まれ、パリの革新的な店の店員となる。
当初、食事と住居が支給されるだけの無給の住み込み店員だったが、知識を貪欲に吸収しながらやがて独立し、世界で初めてのデパートといわれる ボン・マルシェ を世界的チェーンに発展させる。
入出店自由、定価明示、現金販売、直接仕入れ、返品可能・・・
当時としては斬新なシステムを構築し、薄利多売で消費者の心を掴み、またたく間に巨大デパートへと成長させていく。
バーゲンセールの発明、効果的な宣伝、無料のドリンクサービス、カタログによる通信販売・・・
次々と新たな戦略を打ち出し、客たちは商品の饗宴を前にして平常心を失い、購買欲の奴隷となってしまうのだ。
一代で巨大な富を築き上げたというと「利益のみを追求する強欲夫婦」を想像してしまうが、彼らはそうではない。
客の信頼を得るために「誠実」をモットーにし、高品質の品を廉価で販売する。
従業員に対しても、
高賃金、定期昇給、無料の社員食堂、無料の独身寮、教養講座、退職金制度の設立、養老年金制度・・・と、当時では考えられないほど高待遇の福利厚生制度を確立していくのだ。
極めつけはブシコーの亡き後、未亡人が莫大な遺産を元店員を含む店員全員に配分し、残りをパリ市民生委員会に寄付した事実だ。
19世紀のフランスに、こんなすごい夫婦がいたのだと感動する一冊だった。
最近は消費者の購買行動が変わり、デパートを始め店舗で実物を見て、ネットショッピングで安いものを購入することが多くなっているという。
思い出と夢がいっぱい詰まったデパートも、いつかなくなってしまう日が来るのだろうか。
※参考:ボン・マルシェ百貨店( Wikipedia )
※ボン・マルシェ/BON MARCHEとは乏しいフランス語の知識から「いい市場」と思っていたが、「安い」という意味が正解らしい。
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