2013年2月21日木曜日

たった独りの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く

たった独りの引き揚げ隊 10歳の少年、満州1000キロを征く
石村博子著
角川書店

10歳の少年が終戦後、独りで満洲を1000㌔横断!ハンカチ不要の明るい感動物語。



格闘技の世界では知らない人はいないという、ビクトル古賀(1935―)日本名・古賀正一。
士族の血をひく日本人の父と、コサックの血をひくロシア人の母の長男として満州国・ハイラルで生まれた。
その後、ロシアで開発された格闘技・サンボで41連戦すべて一本勝ちという不滅の金字塔を打ちたて「サンボの神様」と呼ばれた。

本書はそんなビクトル古賀が、終戦後ある事情から満洲を独りで1000㌔旅した記録である。
当時、10歳(正確には11歳)。

満州からの引き揚げと聞くだけ涙がこぼれそうになってしまう私は、ハンカチを握り締めながら読み始めた。
前半は聞き慣れない地名や名前に読むスピードも上がらなかったが、メインの独り旅の話になるとえー!えー!と言いながらいつの間にかハンカチを手放し夢中で読みふけった。
確かに、「リュックと毛布を奪い取られ身一つで放り出される」「死体から靴を奪う」「腹を下し高熱が出る」など悲惨なエピソードもたくさんあるのだが、不思議と悲壮感を感じない。
それもビクトルの前向きな明るい性格によるものだろう。

コサックの集団を統率する頭目を祖父に持ち、コサック式の騎馬訓練を受け、幼い頃から自然と共存する方法を学ぶ。
一方、人種のるつぼであったハイラルで日本語・ロシア語の他、中国語・モンゴル語など様々な言語を学ぶ。
それらの経験と、人懐っこい性格が独り旅を可能にさせたのだ。

木の実をとり、魚の干物を作り、飲める水か判断しながら川の水を飲む。
ナイフを使って様々な道具を自分で作り、太陽や風向き・雲の様子を読み、川の匂いを嗅ぎ当て、研ぎ澄まされた本能で自然と向き合っていく。
刺されたら命に関わる虫の攻撃を回避するため、草の汁や馬糞を利用するという箇所ではもう驚くしかない。
楽天的すぎるほどの性格に思えるのに、自然の前では慎重に危険を回避していく。

なんと生命力の強い、逞しい少年だろうか。
その一方で、ロシア人の家を訪ねて礼儀正しく同情を引いたりと、なかなか抜け目無い面も持ち合わせている。

このサムライとコサック両方の血をひく少年は、この旅のことを「楽しかった」「人生の中で一番輝いていた」という。
やわな現代人には到底無理な独り旅。
本当に10歳(11歳)の少年がやり遂げたのかと、にわかには信じられないような過酷な旅。
読み終わると「ほぉ~」と感嘆する一冊だった。

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