暗夜 残雪著 近藤直子訳
戦争の悲しみ バオ・ニン著 井川一久訳
中国人作家・残雪の短編とベトナム人作家バオ・ニンの長編が収められた一冊。 今まで手に取る機会のない種類の本だったが、貴重な体験ができた。
残雪
中国人作家の本を読むのは、パワフルな小説『兄弟』(余華著)以来の事であった。
この本には、7つの短編が収められているのだが、それのどれもに衝撃を受ける。
物凄いエネルギーが溢れ出している話だった。
例えば表題作の「暗夜」は、「猿山に行こうと家を出たが、たどり着けずに家に戻る」という話なのだが、
「猿山」って何?どこにあるの?等という疑問が浮かんでも、質問すらできないような勢いでどんどん進んでいく。
そのうち、そんな疑問もどこかに消え失せ、著者のペースに圧倒されながらぐんぐん引きずられて行く。
そして、私の中をかき回しまくって、唐突に去っていく。
残された私は茫然とするしかないではないか。
すべてそういう調子で、文章自体は平易な言葉で読みやすいのだが、荒々しく、パワフルな作品だった。
こういうのは言葉では表せない、体験した人しかわからない経験だと思う。
他の作品も読んでみたいと思わせるような作者であった。
戦争の悲しみ
ベトナム人作家バオ・ニンの長編小説。
主人公が入隊して戦争を生き残り、戦後再会した幼馴染の恋人との関係が書かれている。
正直、何度も読むのをやめようと思った。
なぜなら、本を閉じた後も「悲しみ」の余韻が私を襲うのである。
戦争中の残酷な場面も描かれているが、それは意外と平気であった。
しかし、戦後の主人公の心理状態があまりに辛く、読んでいる私まで大変辛くなってしまった。
そして、最後に明かされた辛い過去、恋人に言ってはいけないセリフを吐いてしまった時には、
堪えていたものが決壊してしまった。
戦争がなかったら、二人は幸せに歩んでいけたのだろうか。
戦争は、心に大きな傷を残し、何年経っても疼き続けるのである。
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