傷痕
桜庭一樹著
講談社
マイケル・ジャクソンをモチーフにした桜庭一樹さんの長編小説。孤独なスーパースターを側面から描いたそれぞれの傷痕の物語。
マイケル・ジャクソンをモチーフに、舞台を日本に変えた物語。
幼い頃、兄弟グループで大人気となり、独立した後スーパースターとなったキング・オブ・ポップ。
圧倒的な歌唱力とダンスで人々を魅了してきた彼は、社会問題の解決に乗り出し、多額の寄付をし、ノーベル平和賞の候補にもなる。
奇行も増え、銀座の廃校になった小学校跡地を改造し、遊園地・動物園・映画館・・・など子供の夢が詰まった「楽園」を築いた。
「楽園」に招待した少女たちから、性的関係の強要罪で訴えられる。
そして「楽園」に突然赤ん坊が現れた。「傷痕」という名の彼の娘であった。
11歳になった「傷痕」を残して彼は突然逝ってしまう。
この物語はそこから始まる。
章ごとに語り手が変わり、
娘から見た優しい彼。
ファンから見たスーパースターである彼。
パパラッチが見た宿敵である彼。
強要罪で訴えた少女の初恋の相手であった彼。
彼の姉、スタッフ・・・それぞれから見た彼の姿を描いていく。
著者の醸し出す独特の世界は好きなのだが、「私の男」でちょっと躓いてしまった。
なぜか、はまることができなかった。それ以来久々の桜庭作品であったが、今回はスーパースターの世界にどっぷり浸ることができた。
特に、コンサートの描写では、会場に充満している熱気が伝わってきて私まで熱くなる。
孤独なスーパースターを描きながら、語り手それぞれの人生も浮き彫りにされていく。
デート中に一緒に聞いた彼の歌、悩める中間管理職の耳に飛び込む彼のニュース、私を見下ろす彼の巨大ポスター・・・そしてそれぞれの心の傷痕。
「いつの世も、スーパースターってのはみんなの心の鏡なのよ。」
みんなが、彼を想いながらそれぞれ自分の人生を振り返る。
マイケルファンの方の評価は両極端に分かれそうに思う。
全編に著者が奏でる「愛・孤独そして傷痕」という題名の曲が流れているような小説だった。
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