2013年10月3日木曜日

出世花

高田郁著
角川春樹事務所

高田郁さんのデビュー作。優しさが溢れ出てくる時代小説です。



本書は、漫画原作者から時代小説作家へと転身された高田郁さんのデビュー作であり、4つの短編からなる連作時代小説である。

主人公は武家の娘「艶」(えん)。
下級武士の源九郎と娘の「艶」は、不倫の末駆け落ちした妻と相手を討つため旅に出た。
2人は行き倒れて、下落合にある青泉寺の住職に助けられた。
その後、父は住職に娘を託しこの世を去る。
その青泉寺は、死人を弔い、荼毘に付し、埋葬する、葬祭のみを一手に引き受ける「墓寺」だった。
そこで「艶」は、「縁」と名を変え寺で働くことになる。
死者を弔う気持ちに心を打たれた「縁」は、大店の養子にならないかというありがたい話を断ってまで、湯灌を手伝うと自ら名乗り出る。
死者を湯灌し、安らかに浄土へと旅立っていく手伝いをするために。
そして「縁」は「正縁」という名を授かる。
仏教で「出世」とは、世を捨て仏道に入ること。
縁は名前を変えるたびに御仏の御心に近づいていく。まことに見事な「出世花」だ。


実の母との悲しい物語があったり、手篭めにされかかったり、「屍洗い」と蔑まれたりと辛い出来事の中、仕事にやりがいを見出していく・・・まるで「おしん」のように、芯が強いけなげな少女だ。

白麻の着物に着替えて行う湯灌のシーンでは、魂を清めるという厳粛な雰囲気が漂う。
死者を悼む気持ちから、痩せこけた頬に綿を詰め紅を差し浄土に旅立つ手助けをする・・・「おくりびと」の世界だ。

考えてみて欲しい。
「おしん」のような少女の成長物語、「おくりびと」、それに高田郁さんである。
数式に直すと(おしん+おくりびと)× 高田郁である。
どう計算しても答えは、優しさが溢れ出てくるような無敵の時代小説になるに決まっているではないか。
その上、的確に涙腺のツボをキュッキュッと押してくるのだから、読者はたまったものではない。
こんな完成度の高い物語がデビュー作とは、驚くばかりだ。

少しだけ出てくる食べ物の描写では、高田郁さんはやっぱり食べ物好きなんだなぁとニンマリしてしまった。
「縁」のその後が気になるところだが、あとがきで「みをつくし料理帖」の次にこの「出世花」の続編を必ず書くと約束してくださった。
(えっ!「みをつくし料理帖」シリーズが終わる!?終わるのは悲しいが、多くの読者が納得する終わり方をしてくれると信じている。)

ならば、「縁」に再開できるその日を、いつまででも待とうと思う。

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