2013年3月17日日曜日

紙の月

紙の月
角田光代著
角川春樹事務所

1億円を横領した女の転落。



本書は、勤務先の銀行から1億円を横領しタイに逃亡した女の物語である。

何がきっかけで彼女は地獄へと転がり落ちたのだろうか。
夫婦間の齟齬から満たされない心を慰めるために?
若い男と知り合い、自分が必要とされていることに喜びを見出したから?
手持ちが足りなくてふと顧客の5万円に手をつけてしまってから?

大人しい人、綺麗な人、友人たちからそう見られていた女。
犯罪など起こしそうもない女。
そんな彼女が本人もよくわからないままに転落していく様が、細かい描写で綴られていく。

冒頭で明示されているため結末はわかっているのに、女が1歩1歩危ない方向へと進むたび、
「ダメダメ。今なら戻れるから」と制止したくなってしまう。
どうする、どうする。
彼女が考えると一緒になって考えてしまう。
いつの間にか横領犯の側に立っている自分がいたのだ。
「八日目の蝉」を読んだ時も誘拐犯に同情してしまったように。

高級店に足を踏み入れただけでその雰囲気や店員の態度から、まるで自分が一段上のクラスの人間になった気がする。
高級品を身につけただけで、一流の人間になれたような気がする。
中身は変わっていないにもかかわらず。
お金とはなんと恐ろしいものなのだろうか。
ただの「紙」なのに。

使えば使うほど麻痺していく金銭感覚。
ふとしたきっかけてお金に溺れてしまう---そんな誰にでも起こりうる怖さが描かれた一冊だった。

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