55歳からのハローライフ
村上龍著
幻冬舎
人は、何か飲み物を、喜びとともに味わえるときには、心が落ちついているのだそうだ。
あっ、「13歳のハローワーク」の続編だ。
第二の人生を考えようってことだな。
老後はまだまだ先の話と思っていても、つい先日まで女子高生だった(つもり)なのにもうこんなおばさんになってしまったのだから、55歳なんてあっという間なのかもしれない。
これを機会に老後のことを考えてみよう。
と早とちりの私。
本書は「ハローワーク」ではなく「ハローライフ」で小説です。
お間違いのない様に。
離婚した女が結婚相手を見つけようと結婚相談所に登録する話「結婚相談所」
リストラされた男がホームレスになることを恐れている話「空飛ぶ夢をもう一度」
定年後妻とキャンピングカーで旅することを夢見ていた夫の話「キャンピングカー」
柴犬を可愛がる妻の話「ペットロス」
トラック運転手の恋心「トラベルヘルパー」
以上、普通の中高年が主人公の中編5編が収められている。
現役時代の自信から再就職をなめていたが現実は甘くないと認識させられる男、
妻も喜ぶと思い定年後の旅行を夢見ていたが、乗り気でない妻を見てうろたえ苛立つ夫・・・
シンプルな文章と抑えた表現から、リアリティが立ち上ってくるような話ばかりだった。
金銭的に余裕のある豊かな老後や夢物語のハッピーエンドではなく、誰にでも起こりうる現実が描かれている。
今まで読んだ村上龍氏の小説とはだいぶ違う雰囲気だった。
お金の話も具体的な金額が出てくるのでより現実味があり、怖くなったり哀しくなったり、
ふと涙がこぼれたり。
しかし、めでたしめでたしとはならないが、現実を知りそれを受け入れ再出発しようとする主人公たちに共感でき、読後感はいい。
ああ、これは中高年への応援メッセージだ。
ずっと走り続けてきた彼らが、ふと立ち止まり周りを見回すと、体の不調、お金、人間関係と思うようにいかない問題が立ちふさがる。
その辛い現実を受け入れたとき、彼らの「ライフ」が始まる。
そんな彼らに同年代の著者がエールを送っているようだ。
本書では、アールグレイ、おいしい水、コーヒーなど、主人公が好きな飲み物を飲みながら心の均衡を保つ場面が登場する。
私も美味しいコーヒーを飲みながら、これからの人生を考えてみたいと思えるようないい本だった。
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