ミーナの行進
小川洋子著
中央公論新社
キラキラした想い出は帰ってこない。だけど、心のマッチ箱の中にそっとしまいこんで時々取り出してみるのだ。
1972年、母子家庭の 朋子 は、母の都合で中学一年の間、芦屋にあるいとこの家で過ごすことになった。
そこは広い庭、スペイン風の洋館、見たこともない調度品、そして温かな家族がいた。
朋子の視点から、その一年間を綴った小説である。
ベンツで迎えに来たカッコいいハーフの伯父さん。
17部屋もある洋風の大邸宅。
ドイツ人のおばあさんに、タバコとお酒が手放せない伯母さん、炊事から子供のしつけまで家の全てを取り仕切っているお手伝いの米田さん。
そして一つ年下だけれども、憧れてしまう儚げな ミーナ。
大人の私でさえ、その金持ちぶりに圧倒されてしまうのだから、中学入学の朋子にしたらどれだけの衝撃だったろうか。
そこで過ごした甘くキラキラした一年間。
コビトカバの ポチ子 と遊んだ日々、大切なマッチ箱、ミーナの作ったお話、図書館で出会った男の人・・・
たくさんの愛に囲まれて過ごしたこの一年は、大事に朋子の胸にしまわれているのである。
終わり方もよく、温かい話なんだろうと思う。
ただ、私は読みながら物悲しさを感じた。
「この幸せを破壊する出来事が起こるんじゃないかと、びくびくしながら読んだからだろう。」
そう思い、再読してみた。
しかし、やっぱり哀愁を感じるのであった。
なぜだろう?
幸せの中にも、何かのきっかけで崩壊しそうな危うさを朋子が感じ取っていたからなのか?
マッチで擦った炎のように、終わりが来るとわかっている一年間だからなのか?
誰もが持っている少女の頃の、無鉄砲で恥ずかしく、そして甘い大切な思い出が、私にもあるからなのか?
ノスタルジア---もう二度と戻れない少女の頃---を感じた本だった。
子供から大人まで幅広い方にお勧めできる良書である。
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