2012年6月26日火曜日

楽園のカンヴァス

楽園のカンヴァス
原田マハ著
新潮社
アンリ・ルソーに魅せられた人々を描いたミステリー。絵画に対する深い愛情が感じられる一冊。第25回山本周五郎賞受賞作


NY近代美術館--MoMA所蔵のルソー作「夢」
それにそっくりである「夢を見た」という作品の真贋を鑑定してほしい。
期間は7日間。方法は、一冊の「物語」を読むこと。
そんな不可解な依頼を受けたのは、ルソーに魅せられた二人。
一人は、英語・フランス語を操り、ソルボンヌ大学で美術史を学んだ新進気鋭の美術研究者・織絵
もう一人は、NY近代美術館で花形キュレーターのアシスタントをしている ティム・ブラウン
勝者となった者には「夢を見た」の取り扱い権利を与えるという途方もないものだった。
はたして結果は---?

顔をを描くといっても、へのへのもへじ程度しか描けない私は、美術史なんぞ全くわからない。
そんな美術関係初心者が読んでも、全く問題がない作品だ。
しかし、本作は前評判がとても高いので、じっくりゆっくり楽しもうと思い、出てくる絵画を検索しながら読み進めた。

美術館の監視員とはこういう仕事で、ふんふん、じっくり絵を見たいならうってつけなんだ。
キュレーターという仕事は、絵画に関する知識のみならず、社交能力や対人的戦略も大切なのね。
へぇ、ルソーやピカソって・・・
と、知的好奇心を刺激してくれるトリビアがいっぱいであった。

それもそのはず、著者はMoMAにも短期間勤務経験のある正真正銘のキュレーターなのである。
音楽や絵画などの芸術を文章で表現するのはとても難しいだろうと思う。
しかし著者の絵画描写に、熱帯の匂いを感じたり、こちらに向かってくる迫力を感じたりできるのはさすがと思う。
好きな絵の前で何時間も至福の時を過ごすことができるという美術愛好家が羨ましく感じる。

専門家が読んだら、首をかしげたくなることも書いてあるのかもしれない。
ミステリーマニアが読んだら、物足りないかもしれない。
幸いにしてそのどちらでもない私にとっては、絵画に対する情熱と愛情を感じる極上の物語であった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

閲覧ありがとうございます。コメントしてくださったらうれしいです。