驚きの介護民俗学
六車由実著
医学書院
民俗学を研究していた著者が、介護職員として働いて気付いた「驚き」が書かれている本。
著者は1970年生まれ。
大学で民俗学を教えていたが、現在介護職員として老人ホームに勤務している。
民俗学では、ムラを回ってお年寄りたちに聞き書きをするというフィールドワークが主体であり、介護の現場は関心外であった。
著者は、老人ホームで介護職員としてお年寄りに接するうちに、民俗学にとってそこがとても魅力的な場所だと気付く。
お年寄りは、認知症であっても、子供から青年期にかけての記憶はかなり鮮明で 「民俗学の宝庫」 だったのだ。
そこで
「介護現場は民俗学にとってどのような意味をもつのか?」
「民俗学は介護の現場で何ができるのか?」
という方向性からの問題提起として 「介護民俗学」(著者の造語)を掲げたのである。
認知症で会話も成立しないと思われていた人たちから、貴重なお話を伺う。
徘徊・幻覚など、認知症の問題行動も、彼らの「昔」を知ると、理由があることがわかる。
こうして、畑違いの介護の現場で感じた新鮮な「驚き」。
話を伺って、色々な昔の話を聞く「驚き」。
そんな「驚き」を民俗学と結び付けてやりがいを感じていた著者だったが、特養の遅番の担当になり、あまりの仕事量に驚けなくなってしまった。
そんな経験を基に、著者の意見と問題提起が書かれている。
もちろん、いいことばかりではなく、ときに失敗したり、理由もわからずお年寄りに嫌われてしまったりと辛い事も体験している。
そして、介護の仕事はやりがいはあるが、賃金と社会的地位が低い、あまりに過酷な職場環境であり、それを改善するためにも、介護現場が社会へと開かれて行くことを著者は希望している。
読んでいて、認知症を患い、あっけなく逝ってしまった祖母の事を思い出した。
もっと昔の話を聞きたかったと、今改めて思う。
読んだ私にも、色々な「驚き」があり、老いについて、介護について、社会について色々考えるきっかけにもなる良書だった。
ただ、なぜ著者が民俗学から介護職へと転職したのか、経緯が書かれていないのが残念だった。
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