競馬には、農林水産省が管轄する中央競馬(JRA)と、各自治体が運営する地方競馬があり、両者には歴然とした差がある。
レベルも賞金額も違うのだ。
しかし、交流戦もあり、地方からG1を狙うことも可能である。
本書は、地方競馬に所属する少女の挑戦の物語である。
主人公の瑞穂は、騎手免許を取得したばかりの17歳。
訓練を終え、広島の地方競馬の弱小厩舎に所属することになった。
行ってみると、そこはやる気のない者の吹きだまりのような場所だった!
アル中親父、80過ぎの老いぼれ、コミュニケーションをとろうとしない美少年、そして投げやりな調教師。
その上、所属する馬はまともに走れない馬ばかり。
そんな弱者たちの集まりの中で奮闘する瑞穂だが、嫌がらせやアクシデントなど、様々な試練が待ち受けていた。
しかし、瑞穂のひたむきな努力により、だらけていた厩舎もいつしか変化していく。
やる気のないように見えた彼らは、過去の辛い体験から心に深い傷を負っていたのだ。
もともと馬への愛情は人一倍強い者たち。
諦めかけていた夢を追い求め、人と馬が一丸となって、目標に立ち向かっていく。
競馬界のしきたりや馬の躍動感が、丁寧に描かれている。
著者はもともと乗馬が趣味で、一年かけてみっちり取材したんだそう。
だからこそ、馬に対する愛情溢れた表現ができたのだろう。
特にレースの疾走感は圧巻で、思わず力が入ってしまう。
手に汗握り瑞穂たちを応援しながらも、いつしか自分が励まされていることに気づく。
不器用でも、挫折しても大丈夫。
人生はまだこれからだよ。
「ファンファーレは、今鳴ったばかり。スタートもゴールも、まだずっと先にある」
のだから、と。
本を閉じ、「風」が駆け抜けていったような爽やかさを感じている。
競馬好きはもちろん、馬のことを何も知らない人にも、希望と感動を与えてくれる物語である。
※魚目(さめ)という言葉を本書で初めて知った。
馬の目はいわゆる黒目がちで、白目部分が少なく、ほとんどが黒目である。
しかし、ごく稀に強膜や虹彩の色素が欠落して生まれてくる馬がいるという。
中でも虹彩が蒼白い馬を魚目というのだ。
検索してみると、まさに魚の目のようだった。
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