石田ゆうすけ著
幻冬舎文庫
7年半かけて自転車で世界一周した著者は何を食べてきたのか。感動の旅行記。
1995年に日本を発ち、7年半かけて自転車で北米→南米→欧州→アフリカ→アジアを周り、87ヵ国を訪れ、2002年に帰国。
本書は、そんな著者が食べてきた食べ物の話を中心に書かれた旅行記である。
㊟2006年に実業之日本社から刊行されたものに20話足して、大幅加筆訂正の上、幻冬舎文庫より刊行された。
読み始めて文章の上手さと表現力の豊かさに、すぐに引き込まれた。
氷点下でのサイクリングなど想定していなかったのに、記録的な寒波に見舞われマイナス13℃の中を走る。
人気のない砂漠で銃口を突きつけられ、自転車以外全て盗られてしまう。
そして幾度となくお腹を壊しながら、著者はくじける事なく赤い自転車でひたすら走り続けるのである。
暴力的な甘さの極彩色のケーキを無理やり食べ、
親切にしてくれた人が作ってくれた堆肥のニオイのスープを前に途方に暮れる。
かき氷の蜜を求めてカップに蜂が黒く群がっているのに慄き、
美味しいパンの中に埋もれていた大量の蟻を見て錯乱状態に陥る。
ポーランドでご飯の上に生クリームとイチゴジャムと砂糖が大量にかかっている「ライス」を頼んでしまい、玉砕する。
シリアでは招待された家庭のどこでも、歯槽膿漏のおじさんの歯垢をかき集めて熟成させたようなヤギの乳のヨーグルトを出され、口の中で小爆発を起こす。
世界には想像を超えた食べ物がたくさんあるんだなぁと改めて思う。
冗談半分で泊めてと言ったらOKしてくれたペルーの軍事施設。
地雷で指を3本失ったカンボジア人にフランスで夕飯をご馳走になり、
怖いと怯えていたクルド人に泊めてもらう。
「日本ではみんなに良くしてもらったから」と食事代を取らないイラン人。
著者とはなんの関わりもないのだが、「見知らぬ日本人にこんなに親切にしてくれてありがとう!」と何度も叫びたくなった。
著者の暑さ寒さ・辛さ喜び・そして感動は、実際に体験しないとわからないかもしれないが、何度も胸が熱くなり、鼻がツーンとしてしまった。
観光地ばかり巡る旅行者には味わえない、人と人との触れ合いがギュッと詰まった一冊だった。
たまたま面白そうな題名に惹かれて手にとったのだが、本書は「世界9万5000㎞自転車ひとり旅シリーズ」第3弾だという。
第1弾「行かずに死ねるか!」第2弾「いちばん危険なトイレといちばんの星空」もぜひ読みたいと思う。
※参考:著者のブログ
※美味しい食べ物ももちろんたくさん載っていた。以下本書からの抜粋
(ブルーベリー)野生の鋭い酸味と甘みが口の中で弾け、澄んだ体に嬉々として染みわたっていった。
(濃い褐色のパン)噛んでいると遠くの方から穀物のほのかな甘みがじわじわとやってくるのだった。
(ピザ)森の奥へ、さらに奥へと、精霊に導かれ、次第に思考力を失い、指についた油も気にせず無我夢中で頬張っている自分がいたのだ。
(石斑魚)言葉も出なかった。磁気のように光る白い身は、噛むとアサリの身に似たむっちりした歯ごたえがあった。一片の淀みもない、清水のように澄み切った味だ。だが、噛んでいると深いコクと甘みが滲み出してくる。
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