2012年12月31日月曜日

55歳からのハローライフ

55歳からのハローライフ
村上龍著
幻冬舎

人は、何か飲み物を、喜びとともに味わえるときには、心が落ちついているのだそうだ。



あっ、「13歳のハローワーク」の続編だ。
第二の人生を考えようってことだな。
老後はまだまだ先の話と思っていても、つい先日まで女子高生だった(つもり)なのにもうこんなおばさんになってしまったのだから、55歳なんてあっという間なのかもしれない。
これを機会に老後のことを考えてみよう。
と早とちりの私。
本書は「ハローワーク」ではなく「ハローライフ」で小説です。
お間違いのない様に。



離婚した女が結婚相手を見つけようと結婚相談所に登録する話「結婚相談所」
リストラされた男がホームレスになることを恐れている話「空飛ぶ夢をもう一度」
定年後妻とキャンピングカーで旅することを夢見ていた夫の話「キャンピングカー」
柴犬を可愛がる妻の話「ペットロス」
トラック運転手の恋心「トラベルヘルパー」
以上、普通の中高年が主人公の中編5編が収められている。

現役時代の自信から再就職をなめていたが現実は甘くないと認識させられる男、
妻も喜ぶと思い定年後の旅行を夢見ていたが、乗り気でない妻を見てうろたえ苛立つ夫・・・

シンプルな文章と抑えた表現から、リアリティが立ち上ってくるような話ばかりだった。
金銭的に余裕のある豊かな老後や夢物語のハッピーエンドではなく、誰にでも起こりうる現実が描かれている。
今まで読んだ村上龍氏の小説とはだいぶ違う雰囲気だった。

お金の話も具体的な金額が出てくるのでより現実味があり、怖くなったり哀しくなったり、
ふと涙がこぼれたり。
しかし、めでたしめでたしとはならないが、現実を知りそれを受け入れ再出発しようとする主人公たちに共感でき、読後感はいい。

ああ、これは中高年への応援メッセージだ。
ずっと走り続けてきた彼らが、ふと立ち止まり周りを見回すと、体の不調、お金、人間関係と思うようにいかない問題が立ちふさがる。
その辛い現実を受け入れたとき、彼らの「ライフ」が始まる。
そんな彼らに同年代の著者がエールを送っているようだ。

本書では、アールグレイ、おいしい水、コーヒーなど、主人公が好きな飲み物を飲みながら心の均衡を保つ場面が登場する。
私も美味しいコーヒーを飲みながら、これからの人生を考えてみたいと思えるようないい本だった。

2012年12月28日金曜日

行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅

行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅
石田ゆうすけ著
幻冬舎

一生の思い出に残るような宝を世界中を巡って探してみたい。汗かいて自分の足で探したほうが宝に出合えた時の喜びも大きい。(本書より抜粋)



「世界9万5000㎞自転車ひとり旅」シリーズの第3弾「洗面器でヤギごはん」 を読んで一気に著者の魅力に取りつかれ、シリーズの第1弾である本書を手にとった。

食に視点を置いた「洗面器で・・」と同じ旅ではあるが、違うエピソード満載で楽しめる。

出発直前に持病が再発するという危機を乗り越えて、著者は当初3年半の予定だった旅をスタートする。
愛車である赤い自転車に荷物を満載し、重さでグラグラしコントロールがきかないハンドルを握り、どこまでも走り続ける。
本書は旅行エッセイだが、次第に身も心もたくましくなっていく著者の成長記でもある。

前回も思ったのだが、文章がとても読みやすく表現が豊かなので、すぐに惹きつけられる。

走行距離 9万4494㎞
訪問国数 87ヵ国
パンク  184回

本書で、世の中には「チャリダー」(Wikipedia )がたくさんいて、多くの人が自転車で旅していることを知った。
著者も、行く先々でチャリダー仲間と出会い、そして別れる。
偶然何度も出会う仲間もできた。

マサイ族の青年に短距離走の勝負を挑んだり、フンコロガシが自分の排泄物を転がすのを観察したりと、観光ツアーでは味わえない、貴重な体験をしながらひたすら走る。

イランのモスクで英語の辞書片手に村人たちが「We Love You」と言ってくれたとき、
一度も笑わなかった少女が、最後に満面の笑みで両手を大きく振ってくれたとき、
私まで胸にこみ上げてくるものがあった。
またしても、通りすがりの日本人の旅行者に優しい手を差し伸べてくれた世界中の皆さん、ありがとう~!と叫び出したくなる。(著者とはなんの関わりもないのだが。)

汗と涙とホコリにまみれながら、自分の目で世界を見て、色々な背景を持つ人と関わり、苦しい体験、悲しい出来事も経験する。
この旅行によって、著者はどれだけ成長したのだろう。

誰もができるわけではない、世界一周自転車の旅。
だからこそ、これからも著者には色々発信し続けて欲しいと願う。

2012年12月26日水曜日

暗くなるまで贋作を

暗くなるまで贋作を
ヘイリー・リンド著
岩田佳代子訳
創元推理文庫

芸術が幻影にすぎないなら、何ゆえ贋作は悪しきことなのだ?                                    ―――「世界的贋作師による一家言」より





私はアニー・キンケイド、32歳独身。
世界的贋作師の祖父に鍛えられた絵画の腕を武器に、日々画家兼疑似塗装師として奮闘しているけど、なかなか請求書の山は減ってくれない。
今日も、絵の具だらけの服にボサボサの髪を適当にまとめて絵筆でとめている。
だって、今朝も時間がなかったから。
今は、墓地に隣接する納骨堂の壁画を修理しているの。
そんなある日、納骨堂にラファエロの真作があると打ち明けられた。
贋作撲滅師の捜査の手がおじちゃんに迫っているから私が阻止しないといけないし、墓場泥棒には遭遇するし、その上死体まで発見してしまう!
一体どうなっているの?
私は普通に暮らしているつもりなのに・・・
「贋作と共に去りぬ」 「贋作に明日はない」 に次ぐ贋作シリーズの第3弾。

久しぶりにアニーに再会して、ちょっとは落ち着いたかと思えば、全然成長してないんだからと思わず苦笑してしまう。
今回も相変わらず無鉄砲で、ドタバタ慌ただしく嵐のように走り回っていた。
そこがアニーの魅力でもあるのだけど。
あっ、でも携帯を充電するようになったのは成長かもしれない。

長身で高級スーツを身にまとう堅物お金持ちの大家さん・フランク。
正体不明の遊び人風でセクシーな元美術品泥棒・マイケル。
アニーを取り巻くイケメン2人との恋の行方も目が離せない。

本作でフランクの意外な過去が明らかになったり、仕事面で急展開を迎えたりと、
これからどうなるのかやはり次作が気になってしまう。

またまた絶叫マシーンに乗せられ、キャーキャー悲鳴を上げている間に終わってしまったようだった。
今度こそ落ち着こうよ、アニー。