2013年4月7日日曜日

格闘する者に○

格闘する者に○
三浦しをん著
新潮社

三浦しをんさんに◎。日々奮闘する女子大生の青春物語。



名家に生まれた主人公の 可南子 は、大学4年生で現在就職活動中。
漫画が大好きなので、出版社に就職して漫画雑誌の編集者になりたいと思っているが、
なかなか上手くいかない。

この「格闘するものに○」は、家の跡取り問題、70歳近い書道家との恋愛、そして就職活動と
世間の荒波と日々格闘している 可南子 の青春を描いた三浦しをんさんのデビュー作である。

読んでいるとどうしても「三浦しをんさんはご自分のことを書いているのだな」と思わずにはいられない箇所がいくつも出てくる。

主人公がただでさえ無用の長物とされている文学部の中でも一番潰しのきかないことで有名な、民俗芸能やら演劇やら映画やらを好む人間の集うクラスだと嘆く箇所は、早稲田大学第一文学部演劇専修出身のしをんさんが在学当時本当に感じていたことではないだろうか。
「漫画喫茶にて5時間で18冊の漫画を読んだ」というのは、きっと漫画好きなしをんさんの実体験だろうと想像してニヤニヤしてしまう。

また、女だからという理由で何かを命じたり禁じたりすることは一切なかったという一節や、ゲイかもしれないという友人のカミングアウトの箇所では、その後の作品にも通ずるしをんさんのジェンダー感が伺える。

継母や父親の秘書、腹違いの弟、そして大学の友人たちなど、脇役たちも個性的でイキイキと描かれている、ユーモアあふれるこの物語。
ああ、これが三浦しをんさんの原点なんだなとファンとして納得の一冊だった。

※途中で出てくる題名「格闘する者に○」の由来となるエピソードは思わず笑ってしまった!

2013年4月4日木曜日

居場所を探して―累犯障害者たち

居場所を探して―累犯障害者たち
長崎新聞社「累犯障害者問題取材班」
長崎新聞社

累犯障害者を知っていますか。



累犯障害者とは、知的・精神的障害があるのに福祉の支援を受けられず、犯罪を繰り返す人たちのことだ。
新しく刑務所に入る受刑者の約1/4は知的障害の疑いがある人たちだと言われている。(本書より)
その中で療育手帳を保有している者はほとんどいない。
また、服役している知的障害者の7割が再犯者であり、3人に1人が3ヶ月以内に刑務所に逆戻りしているという。
(2010年法務省調べによるとIQ69以下の知的障害の疑いがある新規受刑者は6123人。全体の2割強)

本書は、累犯障害者について長崎新聞が2011.7~2012.6まで連載したものを再構成し、加筆したものである。
なお、新聞連載は平成24年度新聞協会賞を受賞している。

この累犯障害者の問題は、元衆院議員の山本譲司氏が秘書給与搾取事件で服役した経験を綴った「獄窓記」や、山本氏の講演をきっかけに世に知られるようになった。

10代の頃から盗んでは捕まる、出ては盗むを繰り返し、11回も服役した60歳の男性(IQ28)は、小学校の特殊学級・知的障害児施設を経て社会に出たあと、行政との繋がりが途切れ、福祉から置き去りにされてきた。

「刑務所はパンもくれるし病院にも連れて行ってくれる安心して暮らせる場所だ」という盗みを繰り返す64歳のろうあ者。
放火の罪で捕まり、「消防団の活動を頑張ってみんなに認められたかった」という知的障害を持つ消防団員33歳。

記者は、そんな累犯障害者たち本人や家族を丁寧に取材していく。
福祉の網からこぼれ落ちた障害者たちの多くは、社会で孤立し、生活に困窮した挙句罪を重ねている。

彼らの貧困・孤立、そして犯罪と「負の連鎖」を断ち切るため、

・障害に配慮した再犯防止の教育システムのない刑務所ではなく、福祉施設で更正させるため、実刑とせず執行猶予処分とする。

・身寄りも定職もない受刑者が社会復帰するために、刑務所と行政・福祉施設が障害のある元受刑者を受け入れ、就労・生活支援をした上で社会に復帰してもらう。(通称「長崎モデル」)

・厚労省の村木厚子さんが、文書偽造事件の損害賠償金で累犯障害者のために「共生社会を創る愛の基金」を設立。(参考:村木さんの設立の挨拶

そんな様々な取り組みが始まっている。

今まで重度の障害者支援ばかりに偏り、見過ごされてきた彼ら。
障害の特性を理解しない成育環境が重なり道を踏み外してしまったと考えれば、変わるべきは彼らではなく、司法・行政・福祉、そして私たちではないだろうか。
一方で、被害者となってしまた方々の行き場のない思いを受け止める必要もあると思う。

重いテーマではあるが、多くの人と一緒に考えたい問題である。

※本書並びに「新聞用字用語集」に倣い「障害者」という字を使用しました。

2013年4月2日火曜日

芸人の肖像

芸人の肖像
小沢昭一著
筑摩書房

昭和は遠くなりにけり。時代を彩った芸人たちの横顔。



突然、玄関先にピンポ~ンと人がやって来て「万歳してお祝いしてあげますよ」と言われたら、
ビックリしてドアを閉めてしまう人が大半ではないだろうか。
大正時代まではそんな「万歳芸人」だけでなく、舞、大神楽、願人坊主、琵琶法師、瞽女など
町から町へと流れていく芸人たちが溢れていたという。
彼らは家々を訪れ、報酬を目的に芸を演じる「門付」(かどつけ)を生業としていた。

この「芸人の肖像」では、著者がそんな門付芸人を始め昭和に残った芸能の残片を日本中に訪ね歩き、写真と随筆で記録していく。
表紙は、浅草寺境内でお金を入れると頭を下げる芸をしている犬のチビである。

粋で艶っぽい話が大好きな知識人…そんなイメージを抱いていた小沢昭一さん(1929-2012)は、蒲田の写真館の息子として育つ。
その後新劇の俳優として活躍するが、その傍らにはいつもカメラがあったという。

露天商が、舌先三寸でバナナやガマの油、薬草などを売る様子。
説教をしながら教えを説く者。
琵琶法師、浪花節、講釈師など語る者。
今ではなかなか見かけることのない芸人たちの写真が多数掲載されている。

そんな中一際目を引くのが、小沢さんが好きだったであろう「さらす」芸の数々。
著者は、ローズ秋山夫妻の荒縄・ローソクの芸(?)、カルーセル麻紀の臀部に咲くタトゥー、
また日々舞台でオープンするストリッパーたちが、楽屋でくつろぐ姿、洗濯物を干す場面を切り取っていく。

面白いと思ったのが、ストリップの音楽は客を煽るような刺激的なものが選曲されているが、
最後にオープンする時だけは明るく元気な曲、例えば「ピンポンパン体操」を流しながらニコニコ開くのだという。
客を安全に早く帰したいからだろうか。

一つ一つの職業について詳しい説明がないのが物足りなく感じたが、もう見ることができない昭和の記録であり、読むことができない粋なおじさんの随筆が読める貴重な一冊だった。